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YoruHika 三国志女性向けサイト 諸葛孔明偏愛主義
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軍師将軍が花街のある技館を贔屓にしている。たいそう入れ込んで足繁く通っているそうだ。

・・・という噂を耳に入れた魏延は、しばらくの間無言でいた。

「はは・・まさか」
笑いが、乾いたものになったのは否めない。


どうやら真実らしいとの証言を聞いて、咳ばらいをひとつしたあと本格的に声を上げて嘲笑した。

「あのような細腰で女を抱くとはな。笑えるわ」
「いやそうでもない。武官ほどではないが、よい体格をしておられよう。朝堂で百官を従える姿は、御貫禄があられる」
「いや、あれは、」
衣装だけだ、と言いかけて魏延は口をつぐんだ。


実際にあれは、貧弱な体格を隠すために重々しい袍をまとって威厳をつくろっているだけなのだ。
重い衣を剥げば、あやういほどに線が細く、繊細な躰である。ことに膚は絹のようにやわらかで――
というようなことを、思わず口にしてしまうところだった。
あぶない。


「趣味人でもあられる御方じゃ。普段は慎ましゅうしておられるが、華やかな花街は案外好まれるのかもな」
「美丈夫であられるゆえ、技女にもてるのではないか」

軍師の妓楼通いを非難する者は勿論いない。冷静で謹厳なふうな軍師が妓楼に通うのは人間らしいともてはやしている。
盛り上がる同僚から離れた魏延は、むっつりと口を引き結んで歩いた。

妓楼に通っている・・本当に?
どのような女人が好みなのか。
豊満な女・・・ではまさかあるまいな。才色兼備のたおやかな女なら、或いはありえるのか。


「うぬ・・」
腹に暗雲のようなものが湧いて魏延は息を吐き出した。





軍師贔屓の妓楼を突き止めて乗り込んでいったが、あまりの場違いに目を剥いた。
妓楼が華美であるのは当然のこととしても、並外れて品が良く風雅なたたずまいである。あちこちに垂らした透けるように薄い白絹が謎めいた雰囲気を醸し、金糸をあしらった濃緑の布と銀糸をあしらった深紅の布が、華やかな上にも高貴な風情である。


そこかしこから楽の音がする。
ただよう香は清冽かつ奥ゆかしい。
行き交う技女らも尋常ではなく上品な良い衣を纏い、ひらひらとした薄衣がたなびくさまは、まるで神仙境の仙女でもあるように神秘的である。


「・・・魏延?」
ぽかんとしていると、背後からいぶかしげな声が掛かった。
振り向くと仏頂面をした諸葛亮がいた。
「軍師」
「なにをしにきた」
「なにをしに?」

「貴様のような身持ちの悪い男に、ここの技女らに手は出させぬぞ。今後おまえは出入り禁止だ」
「な、―――なんの権利があって」
「あるとも。私が楼主なのだからな」

は、楼主?
驚き呆れて声も出ないために憮然と黙り込んだ魏延に、諸葛亮は肩をすくませる。


「孔明様」
ゆったりとした美しい声が掛けられた。
品の良い金糸で縫い取りした白衣の袖をひるがえした佳人が近付いた。貫禄からして楼の女主人であろう。
高官が技館を援助することは無いことではない。
そうした場合、女主人は愛人であるということが多いのだが。

軍師の、愛人、か・・・?

途轍もなく高価であるのだろう純白の綾織りをさらりと着こなした女は美しく、王侯貴族とみまがうほどに気品があった。
うるわしくたおやかでありながら隠しようもない知性を漂わせているところなどは諸葛亮と似たところがあり、軍師の寵愛を受けていると言われると百人が百人とも納得してしまえる美貌と気品であるのだが、魏延はまるで納得できず、むかむかと胃が疼いた。

「お待ちしておりました。妾も、この子たちも」

「軍師さま」
「あいたかったです」
待ってましたとばかりにわらわらと集まってきたのは年端もいかぬ少女たちである。
5人ばかりいて、いずれも十歳前後であろう幼いものたちだ。


めまいがした魏延は後ずさった。
まさか、まさか・・・幼女趣味であられるのではあるまいな。
握った拳をぶるぶると震わせる魏延をものともせず恥ずかしげもなく、諸葛亮は少女たちに囲まれて微笑んでいる。
機嫌よい様子に、女主人よりこちらが本命なのかという疑惑がむらむらと湧いた。


高官が技館を援助するのは、特殊な性癖を隠しながら発散するためという場合が、無いこともないのだ。


重ねていうが、下は十にもなっておるまい。一番育ったのでもかろうじて十五ほどであろうか。
こともあろうに、微笑んだ軍師は「皆、来なさい」と言って引き連れていこうとする。

「待て。待ちなされ、軍師殿」
思わず腕を掴んだ。驚いた顔をするのに驚いたのはこちらだと内心で悪態をつく。

「幼女相手に乱交なさるお積りか。なんと不道徳な」
ひそめた声で罵倒すると、ますます驚いた顔をする。
「お前のような男に道徳を説かれる日がくるとはな」
「いかに某でも幼女はない」
「そうか。ほんの少し微量ながら見直したぞ」
「なんだと」

高飛車な言い様が気に食わず喧嘩腰になりかけたが、微かな笑みの気配に振り向くと、白い指で口元を隠した女主人が忍び笑っているので、気勢をそがれた。

「孔明様。ここは人目がありまする。広間の用意をしておりますから、そちらにどうぞ」



お前も来い、といわれて連れだって入ったのは上客用とみえる広間である。
「琴を教えているのだ」
言う通り、少女らはそれぞれに楽器を用意している。
調弦がありしばらくして合奏がはじまった。
上手い。だが、妓楼というには少々清雅に過ぎる気がした。

「高尚すぎるのでは」
「わざとだ。高尚であればあるほど、猥雑を好む下郎に弄ばれることは減る。この妓楼では楽と舞い、或いは詩作を愉しむ場にしたい」
「色は、売らぬと?」
「禁じてはおらぬ。ただ、いかに金を積もうが無理強いは許しておらぬ。当然暴力などは禁止だ。無体をされぬよう、退役した軍人に守らせている」

軍師はゆったりとした私服であり、羽の扇は持っていない。
かわりに水色の細い扇子をもっており、時折それを挿して合奏する少女らに指示を出したり、弾き方を教えたりしている。


「軍師さまも、弾いてくださいませ」
いちばん幼い子どもに乞われて、まんざらでもなさそうに諸葛亮は琴爪をつけた。

琴の名手と名高い諸葛亮は、城内の宴席では乞われても滅多に弾かない。まれに弾いても気が乗らぬふうにすぐ切り上げてしまう。
ゆえに魏延は近くで聞いたことはない。

それが、こうもやすやすと弾く気になるとは。
やはり幼女趣味ではないのかという疑念が生じるが、少女らのにこにことしていて純粋に軍師を慕っているらしい様子に、そうではあるまいと胸を撫でおろす。

かき鳴らされる調べは見事であった。


「ほう。名手というのは本当なのだな」
思わずぼつりとつぶやくと、今更だとでも言うように、くすくすとさんざめくように少女らが笑った。

見事な琴の音を聞きつけたように二十歳ばかりの着飾った娘たちがやってきて、袖をひるがえして舞い始めた。
たいそう華やかで美しい。
そしてやはり高尚であるのだった。


「魏延。まさか金をもっておらぬとはいうまいな。祝儀を、はずんでくれるのだろうな」
「貴公の演奏にですかな?」
冗談を返すと、軍師は鼻を鳴らした。

無論、金子は持っている。
舞い終えて端整な礼をする娘たちには景気よくばらまき、少女たちにはあえて菓子を買えるくらいの金を与えた。

礼のつもりなのか少女たちは合奏をはじめ、娘たちも美々しい衣装を天女のようにひるがえして短い舞をひとさし舞って、皆で退室していった。

「舞もうまいが、衣装が見事でござった」
「当然だな。蜀錦の官工房から出しているのだ」
「官権を乱用しておられると?」
「いや・・流行をつくっているのだ。ここの技女は舞や楽はもちろんのこと装いも一級であると高名になっておるので、技女らのまとう衣や着こなしは飛ぶように売れる」
「ふうむ」

出された酒も品が良い。
すこしばかり飲んだ後、気がかりを問うた。

「女主人は、貴公の愛人であられるのか」
「・・・・いや」
「返答に間がありましたな。あやしいものだ」
「酔っておるのか、魏延」
「いや、まさか」


ふ、と少し開いた唇からほのかな息を吐いた軍師は、頬杖をつき、手慰みのように扇子を閉じたり開いたりしている。ぱちりぱちりと小気味よい音が響いた。

「彼女には情報を提供してもらっている。妓楼は人が集まり話も集まるゆえ・・」
「ほう」

ありえることだ。
だがそれで、男女の関係が無いという証にはならない。


胸中の暗雲の正体にはっきりと気付いていながら魏延はかたくなに気付かないふりをしていた。
ありえないではないか。
この魏文長が、嫉妬しているなど。


「魏延。意外にも技女らには興味がなさそうであったな・・・高尚過ぎておまえには高嶺の花であったか」
「・・・ふん」



高嶺も高嶺、――名高き黄山よりも高嶺であろう。
脅しで身体は奪えたが。
千金を積んでも、その心は買えないであろうから。






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