難解な書類を睨んで、孔明は美しい眉をひそめた。
あたらしい法律に関する草案だったのだが、新法を制定するというのは、とかく神経をつかう。
巻き物状の書類を繰りながら一字一句まで検討していると、ふいっと書類が宙に持ち上がって手から離れた。
怪奇現象ではもちろんなく、孔明はうんざりとため息を吐く。
「…わたしの執務室に黙ってはいってこないでくださいと、何度いったらわかっていただけるのでしょうね。返してください。大事な書類です」
「眉間にしわが寄っている。癖になったら大変だぞ。せっかく綺麗な顔なのに」
「綺麗なんていう言い草はわたしを怒らせるだけなのだと何度いったらわかるのですか。…いっそいつも眉間に醜い縦皺を刻みつけて居ましょうか」
「笑った顔が綺麗な女というのは、よくいるのだ。怒った顔が綺麗だというのは、なかなかいないな。そういうのをほんとうの美人だというんだろう。おまえは怒った顔も綺麗だが、皺が寄っていたところで綺麗だ。ほんとうの美人だ」
「……あなたは、私を怒らせるのがほんとうに上手い。心から誉めているのだと判りながら、心の底から腹が立ちます」
「だが、やはり皺はないほうがいい」
馬超はちゅっと音をたてて、まじないをするように孔明の眉間に口づけ、ついでに唇同士も合わせた。
孔明の抵抗をものともせず、さんざん貪り、息が上がるほどになってから少しはなす。
ひどく納得したように、馬超はうなずいた。
「うん。おまえがいちばん美しいのは、欲情した顔だ」
孔明は手をのばして書類を奪い返し(書類は非常に重みのある竹の巻き物であった)、目の前の男を思いっきり殴りつけるために振りかぶった。
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