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YoruHika 三国志女性向けサイト 諸葛孔明偏愛主義
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今宵は比較的早めに仕事を切り上げて軍師府を退出したという。

夕暮れから始まった夜間行軍訓練をつつがなく終わらせた趙雲は、武装を解き、ゆったりとした足取りで軍師の私室へ向かった。

諸葛亮は、板張の床に丸い毛糸編みを敷いた上に端座して、書を読んでいる。
一見するとくつろいだ様相だが、趙雲の目にはそうは見えない。
眉間にかすかな険が漂い、まとう空気が緊迫している。
ということは読んでいるのは、趣味の書ではなく、政務の書簡だろう。
「軍師、殿」
「・・・趙雲殿・・?いま少し・・」
「はぁ」
表書きに目をやると、要衝の地を警護する兵卒の訴えを書き留めた軍官からの報告書であるようだった。こういうものをなおざりにしておけば、兵卒や将官の不満が鬱積して大事になりかねない事は、趙雲にも分かっている。
細かい事項にも手を抜かないことは尊敬に値するが、細かすぎやしないかと心配になるのは、もういつもの事のようになっていた。

諸葛亮は別の書を読みはじめる。
「諸葛亮殿」
「・・」
そっと呼びかけるが、返答がない。
「せめて冠は取ったらどうですか」
邪魔にならぬように息を殺して指先を伸ばし、細い結わい紐を解き放って、冠を留めている笄を慎重に抜き取る。

かすかな音を立てて髪の束が落下した。月光にも似た白いうなじに絹色のような黒い髪が落ちかかる様は、はっと息を呑むほど鮮烈な光景だった。
解けた黒髪の落ちかかるうなじの細さと白さに、ふと喉が乾いたような心地になり、趙雲はわずかに身じろぐ。
いつも思うことだが、この人が書に目を落とす様は、美しい。
横顔は沈静に整っていて、静謐さをたたえている。
というのに、自分は静謐とは対極にあるような心境だった。
困った・・・はやく読み終えていただけないものか。

背を向けて長衣を脱ぎ捨てて単衣になり、簡単な寝支度を整えてみても反応がないので、仕方なく趙雲は手直にあった兵法書を紐解いた。
書を読むのは得意ではないし、特に好きということもない。必要であるから読む、それだけだった。



読み終えた竹簡を巻き終えて卓に積み上げると、諸葛亮はちいさく息をついた。
顔を上げると、趙雲があぐらをかき、書を読みふけっている。
没頭しているようだ。
時に思うことだが、この人が書に目を落とす様は、好もしい。
何事にも真剣に取り組み、真摯にやり通す性分が、こんな時にも現れているようで。
書を読む横顔は、いつに増してきりりとしており、見惚れた諸葛亮は目を細めた。

・・おや・・
冠がなく、まとめていた髪が落ちている。
いつの間に・・?
趙雲がしたのだろうか。
髪を解くなんてことをされて、気付かないなんて。少々気恥ずかしい。

諸葛亮は膝で進み、武将の結いに指先を伸ばした。
軍装の時は金具でかたく留められているが、寝支度をしてきたのであろう、ゆるくまとめただけの結いは簡単にほどくことができた。
艶めいた黒い髪が鍛え抜かれた首筋に落ちかかるのが、なんとも色めいていて、諸葛亮ははっとした。
こっそりと冠を外されたお返しにとやったことだが、なにか、良くないことをしてしまったような気になる。
ぱっと、趙雲が振り返った。
唇がうごいた。孔明どの、と。
音のない声でよばれた諸葛亮は、かすかに身じろいで返答のかわりとする。
熱心に、何の書を読んでいるのですか。
そのような問いをしようと開いた唇を、向かい合った相手のそれで塞がれた。
唐突に。なんの脈絡も前置きもなく。

驚きに諸葛亮は目を見張った。
相手の片手が上がって諸葛亮の後頭部を覆う。逃げられなくされてから相手の舌を含まされ、肩が上がった。

解かれた髪をまさぐられ、ますます逃げ場のないような感覚にとらわれる。
しかし、逃げを考えなくてはならない相手ではない・・・諸葛亮は目を開いて相手が見慣れた蒼将であることを改めて確かめてから、自らの舌を少しだけ動かし、相手のそれに誘うように触れた。
舌同士が深く絡み合う。熱心で、どこかやさしさのある口づけに力が抜けていく。
同性の体臭などを好もしいとおもったことは無い。というのに、身の内が震えるような心地がする。凛々しい雄の匂いにずくりと腹奥がうずく感覚があるのが、羞恥を呼んだ。

「あ、・・」
相手の髪が無防備な首すじの肌をくすぐって、諸葛亮は身を震わせた。
「髪が、くすぐったい」
「あなたが、解いたのでしょう」
「それは、そうですが・・貴方が、私の髪を解いたから」
諸葛亮は手を伸ばして趙雲の髪に触れた。ほんの少しだけ癖があってまっすぐではない黒髪が指に纏いつくのすら、官能を呼び込む。

とさりと床に押し倒されて、目を見張るうちに明かりが消された。
首筋に顔を埋まる。無意識に相手へとのばした手はやわらかく拘束されて、床に押しつけられた。
「子龍・・・牀台へ」
「待てません。――あなたが悪い」
朱黄色の火が消えてほとんどものが見えない中で、先ほどよりずっと性急な口付けをされ、昼間のままの表袍をゆるめて、手が這入ってくる。
冷えた膚に熱いほどの手の体温。重なる咥内もまた熱かった。


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頭の芯で鈍痛がやまない。喉もひどく痛む。
ひそかに侍医を呼ぶと、「風邪ですな」とあっさり断言され、その場で――つまり私の部屋で、薬草の調合がはじまった。
苦みのある青臭い匂いが、鼻の奥をつんと刺激する。

秘密にしてもらえますか、と頼むと、良いでしょう、見舞客が押しかけてもお困りでしょうから、という返答だった。
ですが、蒼龍殿はお気付きになるでしょう、と医師は肩をすくめる。
裏付けるように、足音が聞こえた。

「孔明殿・・!」
大事ありませんと言おうとしたのに、喉が痛んで声が出ず、かわりに空咳がこぼれ出た。男らしく整った清冽な容貌の眉が寄る。
働きすぎです。夜は休まれていたのか。食事をちゃんと摂っておられなかったのでしょう。まったくあなたは、いつもそうだ。

お説教が身に染み入る。薬草を煎じる医師が笑いに肩を震わせている。もっと言うてやりなされ、将軍。
出来上がった薬湯を渡され、苦いですかな?と聞かれるが、味は分からない。お風邪は身体が休養を求めているのです、長引かせるよりはまずは一日お休みなさいと言って、道具を片付けた医師は退室していった。


さあ、お休みに、と背を押されるようにされて、寝台へ。褥の中に押し込められる。
「傍におります」
布団の中でそっと、手を握られた。堅くてたのもしい武人の手。
身体も脳芯もふわりとゆるむ。
「何からもお護りいたしますゆえ、お休みください」
目を閉じるとすぐに、とろとろとした眠りにひきこまれた。


束縛と自由で5のお題  1)動けない 
お題配布元:Nameless様 http://blaze.ifdef.jp/



諸葛亮は、動けないでいた。
緑の葉を茂らせる大樹の下でのことである。
あたりは冬枯れの景色が広がっておりほとんどの木々は落葉していたが、諸葛亮のいる樹木は針状の葉をもっており、冬でも青々と常緑を保っていた。
雨が降っている。そして、――血も降っていた。

「ここを、お動きにならないように」
広く枝を広げた大樹の太い幹へと諸葛亮を押し付けた主騎は、低く強く静かな声でそう言った。
だから諸葛亮は動かないでいるのだが、正確には動けないといったほうが正しい。
高らかな奇声を上げて向かってくる兵卒の兵装の色は青紫。曹軍のものだった。大将格はいない。隊長のような者もいないようだった。しかし十人以上はいる。主な武器は槍と矛。それが無いものは剣で斬りかかってくる。

主騎は、彼のもっとも得意とする武器、すなわち直槍を持っていない。これは諸葛亮のせいだった。乗馬に不得手な諸葛亮を愛馬に同乗させるために、彼は槍を持参することができなかった。ために彼は剣で戦っていた。
怒号と真剣の刃がぶつかり合う音が鳴り渡り、絶叫が上がるたびに血しぶきが舞い上がった。
やがて立っているのは一人だけになった。蒼銀の鎧に染みた赤紅を、細い雨が洗い流している。彼は剣をひと振りして血を払い落とし腰につけた鞘におさめた。


「・・・ご覧になっておられたのですか」
累々と転がる屍体を避けて馬に向かって歩き出す。
互いに、無事かとは問わなかった。大樹に寄って立っていただけの諸葛亮は身に着けた衣冠の袖すらも乱れていなかったし、彼の鎧を汚すのは返り血だけだ。

「ええ。・・・慣れなければ、と思っています」
諸葛亮は気丈に顎を上げたまま、視線だけを伏せた。かすかに震える指先を、袖の中に隠す。
その様子に趙雲は眉を寄せ、息を殺すようにつぶやいた。
「本当は・・・見せたく、ありません」
「戦から――人死にから目をそらしたまま軍師になれと?」
「分かっております。避けられぬことだということは。慣れていただくしか、ないことも。しかし・・・」
趙雲は手を差し伸べようとして、その手がきれいではないことを・・・両手の指よりも多い敵兵を切り捨てたばかりであることを思い出し、伸ばせないままに握り締める。
「本当は、・・・あなたに見せたくない。――あなたの軍略や策が無いと我らは戦えないと知っていますが・・・それでも。本当は、・・・・・・私の腕の中に閉じ込めて、何も見せたくはないのです」

諸葛亮は静かに首を左右に振り、握り締めた彼の拳に、すこしも汚れないままに白い我が手をそっと重ねた。
「大丈夫です。私は・・・護られております。充分に」
手は・・・まだ少し震えたままだったけれど。もう片方の手で、自らの胸を押さえた。
「持たなくては、いけないのでしょうね・・・固く冷たい、氷のようなものを、心の中に。しなやかで折れない鋼の刃のようなものを――」


彼の白い愛馬は、おとなしく待っていた。
鞍から布を下ろし、雨よけのためか、ふわりと頭からかぶせられた。布をさらに覆うように深くかぶせられ、鎧をまとった彼の胸に強く深く抱きこまれた。
何も見えない、動けない。
「―――その氷、・・・・私の前では、不要です」
諸葛亮は動けないままに、彼の腕の中で目を閉じた。

::性描写があります。閲覧ご注意ください::


「声を、殺さないで下さい」
真顔でそんなことを言われたのは、閨房の中。
私はたくさん、それはたくさん、この人のわがままを叶えてきた。
この人はわがままだ。
主公が聞いたら「ええ?子龍がわがままだって?」とびっくりして「なにをいうか孔明、あれほど我慢強い男もおらんぞ」と笑うのかもしれないけれど。
いいや。
子龍はわがままだ。
私にこんな要求をする所が、わがままでなくて、なんなのだろう。
「そんな」
私は目を潤ませる。
これがまた異常だ。天下に大計を描く智者、「あぁ軍師様は神仙のようだ」とまで文官にささやかれるこの諸葛孔明が、閨で目を潤ませて、己の上でわがままを炸裂させる男を見詰めるなんて。
「・・・そんな」
声に含まれるのが非難ではなく哀願だという時点でもう駄目だ。なにか間違っている。
子龍の手管によって私の中心は勃ち上がり、はしたなくも蜜を滲ませている。
ああ、もう達く、と背をそらしたところだったのだ、彼が手を止めて冒頭のせりふを言ってのけたのは。
「子、龍」
「なぜ、声を出すまいとするのです。俺に、聞かせたくないとでも?」
非難に満ちた声で子龍が云う。
非難、されなくてはいけないのだろうか。非難したいのはむしろこちらのほうだ。
「き・・・聞かせたくありません」
この慮外者と罵ってやってもよかったのに、出たのは蚊の鳴くような細い声だ。
もう達する、というところまで嬲られた身で、どう反撃せよと。
でも、聞かせたくない。男に身体を触られて、声を殺すな・・つまりは喘ぎ声を出せなんていう要求をしてくるほうが恥知らずだ。
だが、私の言葉に子龍は眉を上げた

「そうなのですか」
と。
納得して畏れ敬う「そうなのですか」ではなくて、非難と無理解に満ちた「そうなのですか」だった。
子龍は、口を覆っていた私の手を取った。声を漏らさまいと噛んでいたので、指が赤く腫れている、また唾液で濡れてもいるその指に、子龍は唇を寄せた。あたたかい唇に触れられて、「あ」と声が洩れる。
どうしたらいいか分からなくて固まっている私をちらりと見て、子龍は舌をそっと出した。なんてことない愛撫なのに、背が引き攣った。声が洩れそうになるのを、唇を噛んで必死でとどめる。
そんな私を見ていた子龍は、不満そうに口端を下げ――
「・・・え・・っ!?」
私の両腕をとらえてねじり上げると、手際よく後ろ手に縛り上げてしまった。
「な――」
やわらかい布を使っているので痛くはない。けど、・・・
「あ・・」
横向きに寝かされて背後から抱きしめてくる体温に安堵を感じたのは一瞬だけで、片方の手は膝のあたりからゆっくりと上へと滑り、片方の手のひらは胸元にのびて、ふくらみのない稜線をたどって朱尖へと行き着き、そこで不穏な動きをしはじめた。
「ふぅ・・ぁ」
噛み締めていた唇がゆるまりそうになり、また噛み締める。
脚の内側をなでていたほうの手がふ・・と離れ、わなないている唇を撫で、それから口に入り込んでくる。
指先が舌に触れると感じてしまい、濡れた息がこぼれた。
指を口に含ませたまま、子龍の手が胸を愛撫する。指の腹でゆるくこすって赤らんだところを、つまんで転がして。
「ぁふ・・ん・・っ」
下肢では達する寸前に放られた中心が、震えて蜜をしたたらせているのが分かる。しとどに濡れた中心が敷布にこすれるのが、みだらな刺激となって襲いかかった。
指が舌に絡むたびに、切ない疼きが腰にはしる。抜き取られたときにはもう、唇がわなないて口が閉じられなかった。
たっぷりと唾液をからめて指が、そのまま下肢に向う。
濡れそぼった指で後口をくすぐるように撫でられると、びくりと身体が跳ねた。
過剰な反応に耳元で低い笑い声がしたかとおもうと、其処に指がもぐりこんでくる。
「あ、あ・・・!」
両手を後ろで縛められているせいで平衡を失った身体をそっと引き寄せて、子龍が指を動かしはじめた。
瞬間、異物感に総毛だつ。この感触にはどうしても慣れることができない。
「ぁ、ぁ・・いや」
「軍師・・力を抜いて」
「ふ・・く・・あああ」
「すごい締め付けだ・・・感じますか?」
「き、気持ち悪いです・・・」
指が、ぴたっと止まった。男らしい眉宇が険悪に曇ったのも見てとれた。
だ、だけど・・・
女人ではないのだから、快に濡れるでもない其処を指が這い回る感覚の恐ろしさは、筆舌に尽くしがたい。子龍だってそれを考慮して、いつもはうんと優しくしてくれるのに。
「・・・気持ち、悪い。そう・・・ですか」
「っ」
足を大きく割り広げられて広い手に中心をからめ取られたかと思うと、そのまま強引な動きで上下に擦られた。一方で、長く節だった指が、窮屈な肉壁を掻き分けるように押し入ってくる。
「ぁ、あ・・・っ!」
ぎしりと寝台を揺らして覆いかぶさるように隙間なく身体を寄せた彼は、不安定に揺れる私の身体を支えながら、後口に入れた指を一層奥深くにまで含ませて蠢かせた。閉ざす事を忘れた口の端から零れた唾液が、顎先を伝って滴り落ちる。
それでも声をこらえようと耐えていると、子龍が体内でちいさく指を折り曲げた。
「あぁっ! ・・や、そこは、・・・・やぁ・・!」
「―――感じますか、軍師殿」
「や、あっ・・・やめ・・いや、そこはいや・・!」
「お嫌などと。ここが、好いのでしょう?」
一度出した指を2本に増やして子龍は指の腹をそこばかり抉るようにこすりつける。
もう声をこらえるなどできない。
「ひぁ・・・・ああ、あ・・・っ」
濡れるはずもない箇所からくちくちと濡れた水音が漏れているのは何故なのか考えたくもなかった。
「で、出てしま・・・あ!」
とうに限界を超え一抹の理性で留めていたものが弾けようとした瞬間、大きな手に根元をきゅっと握られた。
「い、いや・・子龍、」
弄られて男性の手に放ってしまうなど考えただけで浅ましい。彼の愛撫にも意思を手放すいと耐え続けていたが、放出を留められた私の理性は崩れてしまいそうだった。
「だめ・・・あ、あ、」
「軍師、どうか・・・」
理性どころか正気を手放しそうになる。恥ずかしい、出したくない、我を忘れたくはない。そして早く解放されたい、我を忘れて彼にすがり、優しい快楽を与えられたい。
結局どちらも選べなくて声を詰まらせたまま、涙がこぼれた。
「子、龍・・」
涙混じりの哀願を込めてか細く呼ぶと子龍は怒ったような表情をし、次の瞬間には凛々しい眉を歪ませて嘆息して、中心を戒めていた手をゆるめた。
「・・・・卑怯な方だ、あなたは」
するりと私の両手の拘束を解き、中心に指をかけて擦りあげる。とうに限界を超えていたものはあっさりとはじけた。
声を抑えることもできず精を吐き出し、整わない息をせわしく吐きながらぐったりと寝台に沈んでいると、子龍が額ぎわの髪を撫でていて、その心地よさに目を閉じた。

 

実のところ私はそこで眠ってしまいたかった。
あの、尾てい骨が割れるような激烈な痛みと全てをさらわれそうな快楽は激しすぎて。
受け止めきるのは彼はいつも激しすぎて。

「あの・・どういたしますか。挿・・れます・・・・・・・?」
目を開けておそるおそる訊ねてみる。自然と上目遣いになった。
子龍は何か言いかけたが黙り込み、難しい顔をした。考えているらしい。
その様子から、いま働いた無体を反省しているようにも見えて、いかにも、今夜はもう、ゆっくりお休みください、軍師。なんていうセリフを言いそうな感じがした。
だが、顔を上げた彼が実際に言ったせりふはというと。
「・・・挿れます」
だった。
「・・・お嫌なのですか」
この人らしくなくひどく切羽つまった表情と口調に、眩暈を感じる。
声を出すなという要求を拒んだら、縛られた。
感じるかと聞かれて、否定的な感覚を訴えたところ、先ほどの無体だ。
ここで嫌だと答えたら、このあとの私の運命はどうなるのだろう?
この人はわがままだ。
わがままでなくてなんであろう。
私は目を潤ませた。
「軍師」と切なげにつぶやいて子龍が私の唇に指を這わせた。
「・・・私はあなたが好きです」
「・・・はい」
眉を寄せた真摯な表情で、吐息だけで子龍が返事する。
「俺も、軍師のことが」
絶句したのは、なぜだろうか。
「だから・・・いいです子龍・・私にあなたを感じさせてください」

万人が見惚れる美麗な容貌を言いようのない表情に歪ませて、堰を切ったように子龍が覆いかぶさってくる。
全体重をかけて押さえ込み、力任せにぐいと足を抱え上げられた。
「・・っ、ゆっくりしてください怖い・・っ!」
「優しくします、・・・・優しくいたします・・・っですから軍師殿・・・どうか・・・―――受け止めてください。・・・・俺を、拒まないで下さい」


いつも受け止めているのに。困った人だ。
返答の代わりに自由になった両手を彼の背に回すと、引き攣れたように鍛えた身体が震え、彼は短く荒い息を吐いた。

 

 

 

 

後日。
主公に、子龍はわがままだと、ふと洩らしてしまった。
主公は黒目がちの瞳を瞬かせてまじまじ私を見、それから悔しげに頬をふくらませた。
「私は、子龍にわがままを言われたことがない」
と。
何をかいわんや。
「いいな、孔明は。私も子龍にわがままを言われてみたい」
じと目でじぃっと見る子供っぽさに呆れ、困ってしまった私は目を伏せて微笑んだ。

 

彼とはじめて会った日、雨が降っていた。
静かな雨だったようにおもう。
袖にまといつく雨粒をわずらわしそうに払いのける仕草が優雅で、それでいてどこか烈しかった。
視線に気づいたように眼を上げた彼の前髪が、すこし濡れていたことも覚えている。
ほんの少しだけ下の位置にある双眸が、こちらを見た。
値踏みするような視線は息を呑むほど烈しく、それでいて優雅だった。

 

ドアを閉めると、雨音がやんだ。
さすがに遮音は徹底しているのだな、と思う。
見回した室内は、想像していたよりまともだった。
ドアが頑丈な鉄製なのは、防音のためだろう。オフホワイトの珪藻土で塗り固めた壁はナチュラルな感じがしたし、木を組み合わせた天井も、こういう場所にしては悪くなかった。
合板の家具はすこしだけ安っぽかったが、とりあえず妙な色彩やいかがわしい自販機がなくて、少しは安心した。

力ない身体を、ベッドに降ろして寝かせる。
ベッドが呆れるくらい大きい。
いつものくせで事務的に降ろしたが、もっと優しく寝かせばよかったのだろうかと、急にそんな考えが浮かぶのに苦笑した。
襟元を緩めようと手を伸ばしかけたとき。
閉じていたまぶたが、まやかしのようにゆっくりと、開いた。

「どこですか、ここは・・・」
苦しげにかすれた声が、惜しい気がする。彼の声は好きなのだが・・・まあ、ひくくかすれた声も、艶めいていなくもない。
「ホテルの部屋です。俗にいう、ラブホテルというものですよ」
「・・・・・・」
物憂げに閉じた眼がまた開くのにすこしの間があった。
「・・・なぜ私は、ラブホテルとやらにいるのでしょうか」
声には理知が戻ってきつつある。
「ラブホテルに入る目的は、そうないと思いますが」
「私を抱きたいのでしたら、インペリアルホテルのスイートくらい取って欲しかったですね」
「なるほど」
予想外の答えが可笑しくて、思わず笑った。
「それは失礼を。ただ、あなたは意識を失っているし、雨が降っているしで、選択肢がありませんでした。これでもまともそうな所を選んだのですが」
「もうひとつ聞いていいですか、趙雲殿」
「なんでしょうか」
「私は意識を失っていた。そして今も、身体が動かない。クスリを盛られた・・・としか考えられませんが」
「そうですね」
「どこの組織の誰でしょうね」
「知って、どうなさいます」
「殺しますよ、勿論」
「俺です」
「・・・なんですって?」
「あなたは薬が効きやすいようですね。もともとの体質なのか、それとも激務にお疲れだったせいなのか・・・後者だとしたら、少しは気をつけたほうがいい」
「・・・・」
また、すこしの間。
身体は動かないのに、舌がそれなりに動いているのが意外な気がした。ゆったりとしたしゃべり方は、いつもとそう変わらない。言葉と言葉のあいだの間が多いことからすると、思考はすこし遅いかもしれない。
それでも透き通るような眼は、やはりこの人でしかありえない色だ。
「それは、いつもは「私」というあなたが、「俺」と話しておられることと、たとえば何か関係が?」
また、意外な言葉だった。
「さぁ・・・あるかもしれません」
「・・・・」
眼を閉じた彼が、息を吐く。
叡智と強さを宿している瞳がまぶたによって閉ざされ、白い容貌でそこだけ血の色の唇がうすく開いて、息が漏れている。呼吸は、いつもよりは速い。

「・・・このことを、殿トウはご存知なのですか」
「このことというのは軍師殿パツジーシンが俺ホングンに薬を盛られて、ホテルに監禁されている、という事実のことでしょうか」
「監禁・・なのですか、これは・・・」
「それに近いものではあります」
「それで、答えは?」
「殿は知りません」
「・・・・・・・」
それから彼は、ずいぶん長いこと黙っていた。
「俺からも聞きます。できれば正直に答えていただきたい」
腕組みを解いて、彼に近寄り、額に手を置いた。薬の影響か、もしくは彼の精神状態によるものか、血の気が引いていて青白く、冷たい感じがした。
「殿は、あなたを抱いているのですか」
長い、沈黙があった。
「・・・聞いて、どうするのです」
「重要なことです、俺にとっては」
「・・・・・」
「答えたくないなら、身体に聞きます。答えたとしても、同じですが」
「同じならば、答えによってなにが変わるのです。たとえば・・・殿が私を抱いている場合は?」
「・・・殺すかも、しれません」
「どちらを」
「殿を」
「・・・反逆を?冷静で賢くて忠義に厚いあなたらしくもない」
「べつに、反逆する気はありません。それで、どちらですか」
「・・・答えたくありません」
「そうですか」
長い黒髪を、手ですくう。べつに性格を反映しているわけではなかろうが、冷たい手触りだった。くせはあるが強くなく、しなやかに手に纏いついてくる。彼の体の一部分にでも、すこしは素直なところがあるのだ。
頬にかかる髪をわずらわしそうにしていながら、抵抗をする様子はない。

殿は、彼を抱いているのか。それだけは分からない。
たびたび寝所を共にしているのは確かだが、護衛としてつねの劉備のかたわらに在り、プライベートな事柄までほとんどすべてを知っていても、彼を呼ぶときの劉備はかならず寝所を締め切ってしまう。
夜が明けて退室する彼から、情事の気配を知ることはできない。寝乱れた髪をかきあげながら寝室から出てくる彼に、みだらな痕跡が残っていることはない。
彼はあまりに冷ややかで情事の気配がないが、劉備は劉備でまた熱くありすぎて、とらえどころがない。
彼を愛しているのは確かでも、それが身体を求める欲望をともなっているのか、計り知れなかった。

「それだけしゃべれるのなら、身体は、もう動くのでしょう?抵抗しないのは、無駄だからですか、軍師殿。だからあれほど、武器を持ち歩きなさいと言ったのに」
「私はあなたたちと違って野蛮なことは好みませんので」
挑戦的な視線を向けられたが、とくに反論はしなかった。
彼の声も舌鋒も嫌いではないので、このまま一晩中、論戦を繰り返しても良かった。
だが―――
「・・・抱きますよ、孔明殿」
いちおう、言ってから服に手をかけた。
刺し殺しそうな眼で睨んでくるのに、肩をすくめる。
「殺したい、という目をしておられる」
「お止めなさい、趙雲殿。後悔しますよ」
「あなたが俺を殺すときは、銃でもナイフでもないのでしょうね。・・・毒かな」
「私の敵が楽に死ねないことは、あなたが一番よく知っているはずです」
「・・・あなたの毒は、甘そうだ」
抱いたところで、手に入れることはできないのは分かっている。
知っていて―――何が欲しかったのだろう?

 

 


意外だった。
「―――殿は、あなたを抱いていなかったのか・・・」
返事はない。
あると思っていたわけではなかった。意外で思わず口に出してしまっただけだ。
どこまでも冷たいのか思った身体は、熱かった。
さいごまで抵抗しないかと思った手足は、途中から抗ったが、力で押さえつけた。重ねた衣服を乱して膚を侵した。鋭い叱責がいつしか懇願になり、最後には哀願に変わったが聞かなかった。
嫌だイェン、と繰り返す声音が、耳に残っている。
犯したときの、絶望にまみれたうめきも。

まともそうなホテルだったが浴室は馬鹿げて広く、蛇口をひねると、何もしていないのに勝手に泡が出はじめた。
魂が抜け出したようにうつろだった身体だが、後方に触れるとびくりと肩を震わせる。
「・・・嫌」
「お許しを、軍師殿・・・。中の始末をしなければ、お体に障ります」
「・・ぅ、ぁ」
叶うかぎり丁寧に素早くやったが、その間中、屈辱にまみれたうめき声が洩れていた。
どろりと出てきた時には背筋がひきつり、悲痛な喘ぎ声が上がった。
円形の浴槽は、彼を抱いて入ってもまだ余裕があった。
熱めの湯に、真っ白い泡。
雨が降っていることを思い出した。
「初めてあなたに会った日は、雨が降っていました」
後ろに回り、彼を抱え込むかたちで浴槽につかった。
泡は次から次へと湧き出てくる。どうやって止めるのか分からなかったので、そのままにしておいた。
「孔明殿・・・」
白いうなじに口づける。
「欲しかったのです。どうしても・・・殿に逆らっても、あなたが欲しかったのです」
「・・・私は、あなたに初めて会った日のことなど、覚えておりません」
「・・・・・・」
「殿がいらして、多分、その後ろにあなたは居たのでしょうね・・・。雨、でしたか、それはそれは」
うつろな、それでいて毒のこもった声音だった。
「今夜のことも、私は忘れてしまいますよ、趙雲殿」
「そうですか」
少し笑った。忘れてしまう、か。殺されたほうが、ましかもしれない。
はじめて会った日は、雨だった。それは間違いない。
目を伏せたこの人の前髪から、雨粒が落ちたことも覚えている。それを見たのは、俺の前に立つ殿の肩越しだった。
目が合ったと思ったのはきっと、俺だけだったのだ。この人は、殿しか見ていなかったのだ。
抱いたところで、手に入れることはできないのは分かっていた。
届かない、月―――
広い広い浴槽には、白い泡が、いつまでも出ていた。

 








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「隔たり」の魚水の裏ルート趙諸。
途中の意味不明なルビは、あれです、この話、劉軍が中国マフィアだという設定なので。
頭(トウ):ボス
白紙扇(パツジーシン):軍師・参謀
紅棍(ホングン):戦闘幹部
というのが香港マフィアの役職名なんだそーです。Webでちゃちゃっと調べただけなので間違ってたらスイマセンですが。
「隔たり」は魚水がラブラブで趙雲が良い人なのですが、実は趙雲が裏切る裏ルートが存在しまして。しかし隔たりとかぶるのが嫌で、現代。現代でも殺伐とした雰囲気を出したかったもので中国マフィア。うん別に深い意味はないです。

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