すかすか寝息をたてて眠る男の後頭部を、孔明は睨むように凝視していた。
朝まだき。
夜はまだあけきらない時刻。
ただでさえ睡眠不足ぎみの孔明なので、この時間にはまだ、深くて心地のよい眠りのなかにいなければならないのである。
なのに目が覚めてしまった。
「眠れない…」
不機嫌な、地獄の底から響くような声で言って、ごそりと起き上がる。
同衾していた男が、ん…?と非常に眠そうな声を出した。
「孟起」
こんな時間に自分だけ起きているのは、たいへん不公平である。
同衾者はそのとんでもない絶倫さで、孔明の只でさえ少ない睡眠時間を削りまくっているのだから。
ゆさゆさ揺さぶっても馬超は起きない。髪を引っ張っても起きない。
これでほんとうに猛将なのかと孔明はキレかけたが、馬鹿らしくなり、おとなしく横たわった。
…意外と整った顔をしている。
武装して立つとその派手ないでたちに目がいって、顔立ちそのものに注意はいかないものだ。
目を開けていると鋭角な印象があるけれど、眠った顔はそこはかとなく品があって、血筋のよささえ感じさせる。
…いい体だな…。
投げ出された手は大きくて、手首がみるからに強靭。
孔明はおもわず自分の腕をならべて比べてしまい、結果、憎しみに近い感情をたぎらせた。
男として、武将のなかでさえ傑出した強靭さ。
それは孔明のコンプレックスをダイレクトに刺激する。
寝つけない孔明が気になるのか、馬超が手をのばしてきた。
腕を掴まれそうになって、ぺしりと叩き落す。
眠っていても反射神経ははたらくのだろうか、そのままごいっと掴まれて、抱き込まれた。
抱き枕のようにぴったり抱き込まれて、身動きができない。
孔明はすこしもがいたが、だんだんどうでもよくなっていった。人肌は温かくて、忘れかけていた睡魔が襲ってきたのだ。
「ふん…」
ふぁぁ、とあくびして、孔明は目を閉じた。