「今日は冷えるなあ、趙雲」
いかにも寒そうに肩に巻いた衣で首を覆っている主君に、趙雲は首をやや傾ける。
「そうでしょうか」
それほど寒いとは思えない。頬にあたる風が少しひえているという程度だ。
「そうだったな、おまえは不感症だったな」
「ふか―――・・・なにを言っておいでか」
「冗談だ」
「あまり趣味が良くありません!」
「寒いのも良いものだな、趙雲」
「なにを、また」
「寒いから熱を分け合うこともできるのだな――あんなふうに」
はるか先に見下ろす木の影あたりにたたずむ、長身の影がふたつ。
ただ並んで立っているだけだ。
なにも知らないものには武人と文人がたまたま一緒に居るというふうに見えるだろう。
少し事情を知るものならば、降将と軍師がともに居る、と見るかもしれない。
事情を良く知っているごくごく一部の者だけがまた別の見かたができる。劉備は数少ない一部のうちのひとりであり、とばっちりのような感じで趙雲もその中にはいっている。
「妬けますか?」
趙雲は笑みを浮かべる。先ほどの冗談のお返しである。
「妬けるとも、趙雲。妬けるぞ。あれはわたしが見つけてきた珠玉――極上の'水'なのだからな。それをあんな馬の骨にやれるものか!・・・と言いたいところだがな、あれは妬けない。あれはな、趙雲、寒がりの獣が2頭、身を寄せ合っているようなものだ」
「・・・・・・」
身を寄せ合っているとは言いかねた。ただ立っているだけなのだ。寄り添ってるわけではない。
それでも、なぜかその意味が理解はできた。
おそらく一見すると気難しく、穏やかだがひどく厳しくもあるその人の孤独を、誰よりも近くで見てきたからかもしれない。
あまり理解はしたくないな・・・
「おまえこそ、妬けないのか?」
「え!?」
劉備はそれこそ人の悪い笑みだ。お返しのお返し、ということなのだろうか。
「なぜわたしが妬かなくてはならないのですか!」
趙雲はいいつのる。
あー寒いなぁと劉備はわざとらしく肩をすくめる。
風が確かにすこしつめたいかもしれないと趙雲ははじめておもった。
胸が、すこしだけ痛んでいた。