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YoruHika 三国志女性向けサイト 諸葛孔明偏愛主義
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寝室の帳を引いておくか開けておくかは、寝る前にしばし悩む。
とばりを閉め切っておけば気持ちが落ち着き、安眠が約束される。
とばりを開けておいて日差しで目覚めるというのも、また悪くない感覚である。

しかしやはり安眠は捨てがたく、たいていは閉めて眠る。
昨夜もそうしたはずだった。
目が覚めて光が射し込んでいるのは、だから、とてもおかしなことだ。
重い重いため息を吐いてゆっくりと覚醒しようとしていた私は、室内の薄白さに気付いて飛び起きた。
否。
飛び起きようとした…のだが、いかんせん寝起きの悪さのために、ふらふらと頭を起こしてうなっただけだ。
「・・・朝・・・議・・・が」
「今日、朝議の予定なんかあったか?」
独特の声は聞き覚えのあるものだったが予想外のもので、寝起きの心の臓が跳ね上がった。
ぼんやりと声のほうを見る。

明るいのは昇りきった朝陽が射したのではなかった。
東のほうの山ぎわが淡い東雲に霞んでいたが、空のほとんどの部分はまだ暗色に覆われている。
夜明け特有の澄みきった風が頬をなぶって、まばたきを繰り返す。

とばりと、それから窓を開けはなった彼が、ゆっくりと窓辺を離れた。
腕を組んだ格好のまま、寝台へと座る。きしりという音がして、手が伸びてくる。
「目を開けたまま、夢を見ているのか。器用だな」
伸ばされた手は、わたしの寝乱れた髪を、こめかみに向って撫でつけた。
「・・・どうして、ですか」
「なんだ?」
撫でられているうちに心地よくなって、私はふらりと寝台に突っ伏した。
「どうして、あなたがここにいるのです・・・?西方に出没した盗賊の征伐に出たはずでは。まさか、・・・放り出してきた・・・のではないでしょうね」
やさしげに撫でていた手がとまった。
「―――あのな、・・・俺をなんだと思っているのだ」
「・・・・・」
心地よくて、目を閉じる。
空は白んでいるが、あと少しなら――時間がある。
「盗賊など、さっさと片付けてきた。あのような者ども、錦馬超の敵ではな――聞いているのか、孔明!?」
「・・・・・・」
・・・聞いている・・・ような。いないような。
いや、聞いている。耳には、入っているのだから・・・
「寝るな、こらっ!」
「・・・・」
「ったく!この時刻に戻るのに、俺がどれほど馬を跳ばしたと思っているのだっ。俺は、お前に、会いたくて―――…」
言葉が、ぐっとつまった。
薄目をあけると、灰緑色の眸と目が合った。彼は、みるみる赤くなった。
「―――もう、いいっ!!帰るぞ、俺は!――――っ!?」
勢いよく寝台から立ち上がろうとした彼は、奇妙な顔で固まった。立ってもいなければ座ってもいないという中途半端な格好で。
それは勿論、私が彼の服の裾を掴んでいたからである。
「・・・孟起」
「――――」
あざなを呼ぶと、頬骨の秀でた精悍な容貌が、朱に染まる。
「行かないで・・・ください。私も、・・・会いたかったんですから」
「――――――」
彼はぐっと言葉に詰まったかと思うと、がばっと寝台に覆いかぶさった。
正確に言うと、寝台にではなくて、私に。
ぎゅうぎゅうと締め上げるように抱きつかれて、それから口づけられた。


私は、睡眠をこよなく愛する。
眠りを妨害するものは嫌いだ。
だけど、朝のわずかな時間を共にするために夜通し駆けてきたのであろう彼には、それを許そうとおもう。

「孟起」

もう一度呼ぶと、抱擁はますます強くなった。
 

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