趙雲は少なからずむっとした。
そこまで力を込めて否定しなくてもよいだろう。
「軍師は俺と恋人同士だと人に知れるのは、そんなにお嫌ですか」
「嫌だ!あなたと恋人同士だと知れるのも嫌だが、体格を考慮したら私が受けだということは一目瞭然じゃないか。そんなの、屈辱だ!」
「・・・ははあ」
ものすごく切羽詰った力説に、さすがの趙雲も鼻白む。
しかし聞き捨てならない部分があった。
「・・・軍師は、俺を受けるのが嫌なんですか?」
趙雲の声には、やや危険な響きがある。
「当たり前に嫌だっ!!」
「ふうん」
非常に、危険をはらんだ「ふうん」だった。
「・・・あ、いや」
一般的に穏健派だと思われている趙雲は実は過激な男だと、孔明は知っている。身をもって知っている。
このままでは、「ほんとに嫌かどうか、身体に聞いてみましょうか」なんていう展開にならないとも限らない。「なんならこの場で」とか言い出すかもしれない。
趙雲が一歩踏み出す。孔明は、後退すると見せかけて事実後退しかけたのだが、踏みとどまった。こうなれば先手必勝、攻めはすなわち守りである。孔明はがばっと一歩前に踏み出し、武人の首に抱きついた。
「・・・私は男だから、我が身に男を受け入れるのに内心忸怩たる思いがあるのは、否めぬ。だけど、――」
「だけど、なんですか」
軍師に抱きつかれたまま、武人は平坦に問う。
軍師は、息を吸った。そして吐いた。
「だけど、―――私は、あなたを拒んだことが、ないだろう?」
それで、判れ。
趙雲も息を吸った。そして吐いた。
「・・・判ってますよ、軍師」
反則技なんだか正攻法なんだかよく分からない戦法で、恋人同士は和解した。
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