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YoruHika 三国志女性向けサイト 諸葛孔明偏愛主義
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ゆらりと不気味な影が孔明に迫る。

「…逃げるな。つか、逃げられると思うなよ…」

影はいちおう孔明の情人ということになっている男の声を発した。
情人、という区分は、ぶっちゃけカラダの関係があるいうことだ。
さらに突っこむと、カラダの関係しかないよという意味でもある。
恋をしてれば恋人だろうし、語弊はあるが、愛人という言葉も世の中にはある。
カラダの関係はあるのだが、いまさら恋でもないだろうよという立場。まして愛というものからはなおほど遠い距離感。だから情人なのである。

閑話休題。
影はじりじりと軍師に迫る。
影だけじゃなく実体もともなっている。
ようするにいま、孔明は情人からカラダの関係を求められているところである。

馬超は夜になって、長期の兵訓練から戻ってきた。
ほこりだらけの武衣はこざっぱりした私服に着替えてあり、ヒゲが伸び放題というわけでもないのだが、まとう雰囲気はぎらぎらしている。
ミもフタもない言い方だが、長期の遠征で、溜まっているのであった。
それならば妓館でも遊里でもいって放出してくればよいものを、なぜか知らないがこの男は女好きのくせに、孔明にもそれを求める。
迷惑である。

冷静沈着な諸葛孔明もここにいたって蒼褪めた。
ただでさえ受け役で男の相手をするなぞご免なのに、こんな状態の男の相手をするのはもっとイヤだ。
身の危険を感じる。へたをすると壊されそうだ。そのあたり、馬超の理性など微塵も信用していない軍師はじりじりと後ずさった。


「…下がりなさい、馬超将軍。わたくしはあしたの朝イチに朝議があってそのあとも公式行事が目白押しなのです。あきらめて妓楼にでも行ってください」

「…妓楼か」

「そう、妓楼ですよ、妓楼。あなたの大好きな。――美しい妓女、やわらかい牀台、吟味された酒と肴…。ほぅら、その気になってきた」

孔明は白羽扇を馬超の顔のまえでぐるぐる回した。まるでエセ催眠術師のようだが、彼なりに必死なのである。

「妓楼なら、さっき寄ってきた」

「…なんですって?妓楼で妓女にフラれたからわたしのほうに来たってんですか?それとも妓女を抱いただけではもの足りなくてここに来た?どちらにしてもフザけんなって話ですね」

「逆だ、逆。おまえを抱きたくてしょうがなかったから、わざわざ妓楼に寄って湯を浴びて着替えてきたのだ。いかないでくださいませとすり寄る妓女を振り切ってきたのだからな。だから、ぜったい逃がさん」


妓楼を銭湯がわりにするなとか逃がさんってんな迷惑なとかいろいろ言いたいことはあったが、馬超の本気を感じ取った孔明は、臆面もない行動に出た。つまり、ぱっと背を向けて逃げ出した。
劉備軍という素晴らしく逃げっぷりのよい軍団にはいったおかげで否応なく軍師の逃げ足も鍛えられていたが、この場合は相手が悪い。数歩もいかないうちにどっと襲い掛かられた。
孔明はばたばた羽扇を振り回す。三国無双というゲームだったらビームとかいうものが放たれて馬超はとっくに吹っ飛んでいるところだが、あいにくこの羽扇からはそんなもの出ない。

「逃げるな。こら、いいかげん抵抗するなっ!」

「冗談じゃ有りませんよガンジーじゃあるまいし。窮鼠は猫を噛むし、ライオンに襲われた鹿だってライオンを蹴り飛ばして逃げることがごく稀ではあってもあるというのに、わたしだけ抵抗しちゃいけないという道理があるものですかいえありませんよっ」

軍略家の弁舌というものは多彩である。わかりやすく尚且つ具体的なたとえ話を駆使し、反語まで使う。
しかし、言葉というものは無力な一面をもつのだ。まことかなしいことだが。

絹を裂くような悲鳴があがって、燭台の灯が消えた。
寝台に組み敷かれてなお、軍師はまだ抗っているようだ。
が、ライオンを蹴り飛ばして逃げる鹿。皆無とはいわないがたいへん稀であることも、また非情の事実なのだった。
 

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