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YoruHika 三国志女性向けサイト 諸葛孔明偏愛主義
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夜、趙雲の居室を訪れた孔明は、あまりの手持ち無沙汰に呆然とした。

趙雲は竹簡を読みふけっている。急ぎ読まなければならないと云って。
新しい陣形を取り入れた用兵についての命令書だという。孔明が立案したものではない。
明朝の調練でその陣形を試すというから、なるほど急ぎである。
書を読む真摯な容貌に見惚れたりもしていたが、いいかげん飽きてきた。

いつもは逆なのだ。
孔明は、政務が終わらない、気になる事があるといっては大量の書物を自室に持ち帰ったり、趙雲の部屋に持ち込む。書を読みふける孔明を、趙雲が咎めたことはない。
しかしそうか、書を読み続ける相手に放っておかれる心境をいうのは、こういうものなのか‥‥
二人きりなのに、相手が自分以外の事柄に集中しているというのは、虚しくも淋しいものであるのだな‥‥
難解であるのか、悩んでいるのか、趙雲の眉間にしわが寄った。
どんなに面倒くさい軍務でも飄々と引き受ける男だけに、珍しい。
耐えかねて、背中に抱きつき、肩越しに手を伸ばして、書簡を自分のほうにも見えるようにした。
がっしりとした肩にあごを乗せて、流し読みする。
趙雲のようにものわかりのよい将を悩ませる軍令書とはどういうものか、気になった。

若手の武官が何人かの連名で立案した、新しい手法を取り入れた陣形と戦法であるようだった。
「創意工夫があって面白いですが、欠点がありますね・・」
「・・・そうだな」
趙雲はむずかしい顔で腕を組んだ。
新しい戦法を生み出そうという熱意は感じられるし、着眼点に面白さはある。しかし実戦で使うのは難しい奇策に、どうしたものかと思う。
一方で、孔明の髪が頬やら首やらにかすめるのがいささかくすぐったい。
親しんだ重さがいとしい。
体温と鼓動が触れ合っているのもまた。



「この策、実戦では実現不可能でしょう?わざわざ調練で試すまでもない・・・ちょっと行って、改正案を」
やわらかくもたれかかっていた身体が離れていく。
「待て、――――待て」
すっ飛んでいきそうな腕をがしっと掴んでつなぎとめた。
行かれて、たまるか。
行かせたら最後、若手武官たちを招集して意見収集、果ては会議を開きかねない、深夜に及ぶまで。
調練くらい、やってやる。無駄にはなるまい。
「失敗から学ぶことは多い。頭ごなしに否定するな。試して欠点があることを自ら悟らせたほうが、若手は成長するものだ」
本心である。
せっかくふたりきりでいるのを、つまらない軍務に戻らせたくないという本音が混じっているにしても。
劉軍の一の軍師はすこし考えて、微笑した。
「そうですね・・・時としてそういう調練を行うのも、無駄というわけではありませんね。さすがは子龍殿」



「それにしても・・・いつも、すみません」
謝罪をされて、何の事かと顔に疑問を浮かべると、孔明は気まずそうに苦笑した。
「相手が書を読みふけっていて放っておかれるというのは、何とも味気なく、虚しく淋しいものだと知りました。いつも私は子龍殿に、そのような気分を味あわせてしまっているのでしょうか」
「いや?」
身に覚えのない心境だったので、趙雲は否定した。
「本当に?」
「ああ」

肩に腕をまわして引き寄せられて、孔明は身をまかせ、もたれかかった。
しなやかさを持ち合わせたたくましい体躯が好もしい。
体温と鼓動が触れ合うのもまた。

「俺はお前が同室にいるだけで、特に不満はない。――生きていて、手を伸ばせば触れられるところにいる。なにかあれば守ってやれる。それで良いような気がする」

「・・・男前なんですよ、まったく。子龍殿は」

ふうっと息を吐き、鍛えた肩口に、甘える猫のように頬をすり寄せる。

「私は淋しかったのです。あまり放っておかないで下さい」

堅い指先であごを持ち上げられて、唇同士が合わさった。
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