美しい髪紐を贈られた。
楚々とした瀟洒な綾紐で、蒼天にも似た深い色の青玉が通されている。
どういう積もりで私に贈ったのだろうか。彼のほうにこそ似合いそうな色合いであった。
数日たってからその紐で髪を結ってみたら、日暮れ時に彼が訪ねてきて、似合いますね、と、まるで他人事のように云った。私はまだ執務をしていて、ありがとうございます、と眼を伏せて微笑んだのだ。
また数日たってからその紐で髪を結ってみたら、夕と夜の境い目のような時刻に彼がやってきて、私たちは何故だか口づけを交わした。
また数日たってその紐で髪を結ってみたら、空が夜の帳に覆われる頃に彼がやってきて告白をした。お慕いしている、と。
その紐で髪を結った。ちいさな蒼玉がひかえめに揺れる。
夜更けにやってきた彼は、彼を迎い入れた私のことをたしなめた。
「私室に、容易に人を入れるものでは、ない」
「貴方以外の方をお入れしたことはありません」
彼は一瞬口をつぐんで、考え込むように眉を寄せた。
私はすこし首をかしげて、指先でそっと髪紐を引いた。解かれた髪が肩と背にゆらりと落ちかかる。
彼はおどろいたようにかるく目をみはり、声をひそめた。
「そのような真似をするものではない。・・・・誘っておられるのかと思われます」
真顔でそんなことを云うものだから、思わず口端が上がった。
指にからみつく綾紐のやわらかな感触。両端に通されたふたつの玉が触れ合っておこるかすかな音。
私は目を細めて彼を見て、云った。
「誘っているのです」
・・・と。
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