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YoruHika 三国志女性向けサイト 諸葛孔明偏愛主義
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日が暮れたからだいぶ経った。
うずたかく積まれていた書簡は減り、残すところ数巻となっている。
書棚に向かって立っていた諸葛亮は、窓から聞こえたカサという音に振り返る。
何も起こらなかった。

窓から目を離して、書棚から抜き取った数巻を机に運び、つぎつぎと開いた。
ここ3日、執務のはかどり具合はよくなかった。
計算違いのことが起きて、思うように仕事がさばけなかったのだ。
そのことを思うと、すこし胸苦しい。
甘いような苦しいような・・・・・これが恋とかいうものなのか、と諸葛亮は自分の心持について不思議に思う。

人を慕うということはこれまでもあった。
家族のことは愛していたし、人よりすこし少ないかもしれないが友情も得た。敬愛する主君を持ち、信頼できる仲間ができ、好敵手だとおもえる人物も何人かいる。
だが、そのどれとも異なる、心情がある。

その心情のせいで、諸葛亮はここ3日の職務に支障をきたしていた。
心というか―――その心によって、行われた行為によって。

―――――戦場では、日常茶飯事なのだという、男同士の交情。
それが諸葛亮には少なからず、負担がかかった。

よくあんなことをして、平気だな、武将や兵士というものは、とおもう。
あれのあと、馬に乗ったり剣や槍を振り回したりできるというのは、自分とは次元が違う肉体を持っているとしか思えない。
というか、多分、馬に乗ったり剣や槍を振り回すのは、きっと突っ込む方なのだろうな、ともおもう。
だって現に、突っ込んだほうはぴんぴんしているのだから・・・・
私は身体のあちこちに支障をきたし、執務さえ滞っているというのに・・・・・・

そこまで考えて諸葛亮は手を額に当てた。
額に触れるといつもよりうっすらと熱い。まさかとは思うが赤くなっていたりするのだろうか。

その時、かたりと窓が音を立てた。
諸葛亮は息を吐き、吸う。
だけど何も起こらない。先ほどと違って気配は確かにあるというのに。
「・・・・・・・」
諸葛亮は立ち上がり、窓を開けた。

「諸葛亮殿ぉ」
へにゃりとした笑顔に出会う。
本当に、へにゃり、としか言いようのない笑顔である。
「・・・・何でしょうか」
「え~~っとね、うん、用はあるような無いような。いやあるんだけど、邪魔なら帰るよ」
「・・・」
邪魔だ、と言ったら、本当に帰るのだろうか。よく分からない。
「・・・あと少しで終わると思いますが。待ちますか」
「うん、待つ。俺のこと気にしないでね」
「分かりました」

諸葛亮は机に戻り、書簡を開いた。今宵はもう筆を取る用はないはずだったが、文章に気になるところがあり、短冊に切った布に気になる要点を書き付けて書簡にはさむ。
それを数度繰り返すと、あとは特に気になるところもなかった。
書簡に目を通しながら、諸葛亮はつぶやいた。
「今日は、何を?」
「俺?」
窓の外に立っている男が、聞き返す。ほかに誰がいるというのだ。
「非番だったのでしょう」
書簡の一巻きを片付け、もう一巻きを手に取って開く。それが最後の書簡だった。
「え~と――――――・・・・・買い物、してたよ」
「そうですか」
かるく言いつつ、返答までに大きく開いた間が気になった。
「なにを買ったのですか」
「まだ執務中だよね」
「たったいま終わりました」
読み終わった書簡をきりりと巻きなおし、揃えて重ねる。

ひょこ、と窓から顔をだした馬岱がきょろきょろと部屋を見渡す。
「・・・・何を探しているのですか」
「羽扇、持ってないの?」
「必要ですか?」
「全然」

執務を終えたと言ったのに馬岱はまだ室に入ってこない。というか、いつもは執務中であっても平気で入ってくる。
室内から見下ろす諸葛亮と目が合った馬岱は、へにゃ、と笑った。
「・・・・なんなのですか、あなたは」
「これ、買ってきたんだよね」
へにゃへにゃともう顔面が崩壊してしまっているが、なんとなく、そんな笑い方も似合っているように思える。
馬岱が懐からこそっと出してきたのは、何の変哲もない小壷だった。
贈り物というには無骨である。
「・・・?」
「いやほら・・・・あのさ、諸葛亮殿」
馬岱がいやに声をひそめたので、諸葛亮は窓の側に立った。構造的に、外にいる馬岱のほう位置が低いので、彼は帽子を押さえながら伸び上がっていた。

「あのあと、・・・・諸葛亮殿、身体がつらそうだったから」
諸葛亮は沈黙する。
あのあと、とはやはりあの行為の後のことだろうか。・・・確かにかなりつらかった。しかし誰にも気づかれていない。執務は平常通り続けていたし、多少滞ったといってもそれは対通常諸葛亮比であって、常人には神速とおもえる速さで処理を続けていたのだ。

「だから、・・・香油」
爆弾を落とすようなことをぺろりと言うものだから、諸葛亮は2,3度またたいた。
そして徐々に顔に熱が昇るのを感じた。

諸葛亮は普段あまり性欲を感じない。
彼とした行為も、身体の欲を求めたわけではなかった。
それをすることで彼の器に、欠けているなにかを注ぐことができればいいと感じたのだ。
詰まる所諸葛亮にとってその行為は、凍えている人がいたので温めた方がいいかと思った、というような心情で行ったのであって、その心情の意味についてその時あまり考えていなかったのだ。
行為のあとで、彼に「好きだ」と言われて考えた。
自分はなぜ、彼にそのような心情を持ったのか、と。

「怒らないの、諸葛亮殿。俺、ビーム打たれるの覚悟してたんだけど」
だから羽扇の場所を確かめたのか。
打ってもいいが、多分打てない。
ますます顔に朱が昇るのを感じる。
恥ずかしい。・・・・・・・いたたまれない。
いったい何なのだ。

「ええと・・・・・安心して、諸葛亮殿。媚薬入りが流行ってるって勧められたんだけど、それは断ったから」
「・・・・・・・・」
この人は私をどうしたいのだ・・・・・と考えて、愕然とした。
香油って、あれのときに使うのだろう。
誰も気づかなかった諸葛亮の身体の不調を、当事者である馬岱だけ気づいた。で、気づかってわざわざ休日に買い物に行った。壷がやけにそっけないのも、諸葛亮が構えないようにだ、おそらく。
ってことは・・・・それって・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・要するに、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今夜もしたい・・・・・・・・・・・・・・・って、ことだ、多分。

諸葛亮は窓から離れた。
なんてことだ、とおもう。
気づくのが遅すぎる。いかに色事に疎いとはいえ・・・・これが戦だったらとっくに領土に攻め込まれている。
そして気づいた。
馬岱がこの期に及んで部屋に入ってこない、つまり諸葛亮の領地に攻め入ってこない理由――――彼は、選択権を諸葛亮に与えているのだ。

「ねえ、諸葛亮殿」
窓の外から声がした。
「さっきも言ったけど。・・・邪魔なら帰るよ」

諸葛亮はほんの一瞬の誘惑に駆られた。
執務がまだすこしあるのです、と言うだけで。この恥ずかしさや居たたまれなさから開放される。
彼は「うん、分かった」とでも言って消えるだろう。
そしてきっともう二度と来ない・・・かもしれない。

・・・・・だからといって、こうあからさまに誘われているものを、「お入りください」などと言うのも。
諸葛亮はこほんと咳払いする。

「・・・・・・・・お入りください、馬岱殿」

きっと、あの時。
亡くした士元を悼んで琴を鳴らしていた夜。
この心を包まれたのだ。

「・・・・・・・・・いつまでも窓を開け放しておくと、虫が入ります。夏なのですから。さっさとお入りなさい」
窓に背を向け。机に置いたままになっていた筆や硯を片付けはじめる。

音はしなかった。ただ風が吹いただけだ。
風が吹き、止んだあと、諸葛亮は背後から抱きしめられていた。

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無題
岱孔いいーー!!
二人ともふんわりしてて、幸せな気持ちになります。きっと二人とも、素直な自分になれるんだろうなぁっと感じます。
素敵なお話書いて下さってありがとうございます!
ぴこ 2014/06/09(Mon)21:41:35 編集
無題
そういえば、岱孔のときのコメ様って素直ですよね。
岱孔は書いててシアワセです~
2014/06/10(Tue)21:28:32 編集
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