馬を走らせる。行き先は草原であったり山であったり、田畑に囲まれた村落であったりもする。名も知れぬ砦や、古戦場の跡があれば足をのばし、歩き、俯瞰する。
街も歩く。知るために。あらゆることを知るために。
知らぬことが多すぎて、苛立つ。
苛立ってさらに馬を走らせると、低木に咲く花を見かけた。
白い花弁、黄色いしべ。知らぬ花だった。山麓にひとかたまりに植わった、あきらかに人の手がはいっている樹木。
土地のものに乞うて、一枝をもらい受ける。
かの人は、わたしがどのあたりに行ったのかを尋ねると、すいと袖をさばいて立ち上がり、ゆったりとした動作で茶を煮てくださった。
わたしが手折ってきた白い花は、丸い茶色の花入れに挿されていた。同じ盆の上に、澄んだ新緑いろの茶。
「茶の、花ですよ…姜維」
茶の花・・・
丞相は、わたしが行ってきた場所、そのあたりで採れた茶葉を煮たのだと云って、微笑んだ。
笑みがあまりに美しく、おもわず視線をそらした。そらしているのが惜しくなって、すぐまた戻す。
茶を喫されながら、丞相はゆっくりと語る。茶の花が咲く時期について。茶の木の栽培について。茶の製法について。茶葉の質について。
くつろいだ、穏やかな表情、静かな声。湯気が仄かにたなびく。
くつろいだ、穏やかな表情、静かな声。湯気が仄かにたなびく。
知らぬことが多い。わたしはそのことにいつも苛立つ。
しかし、知らぬことをこの方に教えていただくとき、いつも。
その眼差しがわたしだけに向けられて。
静かな声がわたしのためだけに語るのを聞くと。いつも。
その眼差しがわたしだけに向けられて。
静かな声がわたしのためだけに語るのを聞くと。いつも。
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