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YoruHika 三国志女性向けサイト 諸葛孔明偏愛主義
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束縛と自由で5のお題  1)動けない 
お題配布元:Nameless様 http://blaze.ifdef.jp/


「動くなよ、魏延」
しかめっつらに諭されて、魏延はしぶしぶ動きを止めた。
軍師は傷口を認めて顔をしかめ、しかし何も言わずに手当をし始める。

南中――南蛮とは、まこと難儀な土地であった。
暑さ厳しく炎熱のために水が毒に変わり、向かってくる兵も奇抜で精強で、毒矢をつかい毒虫や毒蛇をけしかけてくる。
いやな、戦である。
戦闘に慣れた魏延ですらそう思うのだから相当だ
毒の武器や毒水にやられた部下がのたうち回る、胸が悪くなるような光景がまだ焼き付いている。

軍師は、魏延の左の二の腕についた矢傷を丹念に診療し、念入りなほどの毒消しを行った。
軍師は戦場には出ていない。本陣にいたので、戦闘とは無縁であった。そのせいか、彼からは戦場の匂いはしなかった。いつもの、清雅な墨香がほのかに漂っている。
その香りを嗅ぐうちに、彼の気配に囲まれているうちに、魏延の心は凪いでいった。
高温と湿気にさらされて摩耗した神経や、ぎらぎらとした凄惨な戦闘の剣気がやわらぎ、静けさに包まれる。


腕を見てみると、赤黒く醜悪に腫れていた矢傷の色が抜け、沈静している。痛みもほとんど消えていた。
「・・・まだ、動くな」
たしなめられて、また動きを止めると、丁寧に包帯を巻かれた。
それなりに器用ではあるのだが、本職ではないゆえか、巻き方にわずかに引き攣れがあった。きっちりと几帳面ではあるものの、包帯の端の結び目も少し傾いている。
魏延はその引き攣れや結びの傾きを見やって、ふふんと鼻を鳴らし、腕をかるく振ってみた。
「あっ、動くなというに、魏延。まだ、―――」
声を上げるのを無視して腕を伸ばし、軍師の身体を懐中におさめた。
軍師は結んだあとの包帯の余りを切り取ろうとして小刀を持っていたが、あきらめたようにそれを置き、身を魏延にもたせかけた。

「どうだ・・・・――腕は、動くのか。痛みは・・?」
心配をにじませた口調に魏延は太い笑みをうかべた。
「支障なく動く。大事ござらぬ」
そうか・・・と軍師は嘆息した。
「・・良かった」
「軍師」
引き寄せて口を合わせる。
はじめ薬臭さが鼻についた口づけは、しだいに深く、甘やかなものになった。

「貴公はまこと沁みない傷薬のような方だ。いとも簡単に、某を癒してしまうとは・・・」

わずかに照れが含まれる魏延の文言に、少し驚いたように目をみはった軍師は面映ゆそうに目を細めて微笑し、首をかしげた。

「それは、どうかな。・・・塗り薬は沁みないものを用意できたが。飲み薬は、―――」

支度され、差し出されたのは、見るからに不味そうなどろりとした液体である。泥のような濃緑の上に、白い気泡がぶつぶつと不気味に渦巻いている。

「・・・飲まないと、駄目か、軍師」
「駄目だな、魏延」

薬は、それこそ悶絶するような味だった。豪胆な魏延でもしばらく動けないほどの。というか、鎮痛と解毒の作用が強く、急速に眠気を誘う薬であった。
軍師は、苦悶しふらふらと倒れるように横たわった魏延の包帯の余りを切り取り、優雅な仕草で身をかがめて「・・・早く、治れ」と、魏延の口の端にくちづけた。

深く合わせて貪りたい衝動に駆られたが。
動けなった。

まさか、わざとではあるまいな。あとで覚えておけ。
朦朧と目を閉じた魏延の体躯の上に、ふわりと袍が掛けられた。
魏延の幕舎であるので、魏延の軍袍だ。なのに、袍からは薬と、彼の匂いがした。
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