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YoruHika 三国志女性向けサイト 諸葛孔明偏愛主義
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束縛と自由で5のお題  1)動けない 
お題配布元:Nameless様 http://blaze.ifdef.jp/



諸葛亮は、動けないでいた。
緑の葉を茂らせる大樹の下でのことである。
あたりは冬枯れの景色が広がっておりほとんどの木々は落葉していたが、諸葛亮のいる樹木は針状の葉をもっており、冬でも青々と常緑を保っていた。
雨が降っている。そして、――血も降っていた。

「ここを、お動きにならないように」
広く枝を広げた大樹の太い幹へと諸葛亮を押し付けた主騎は、低く強く静かな声でそう言った。
だから諸葛亮は動かないでいるのだが、正確には動けないといったほうが正しい。
高らかな奇声を上げて向かってくる兵卒の兵装の色は青紫。曹軍のものだった。大将格はいない。隊長のような者もいないようだった。しかし十人以上はいる。主な武器は槍と矛。それが無いものは剣で斬りかかってくる。

主騎は、彼のもっとも得意とする武器、すなわち直槍を持っていない。これは諸葛亮のせいだった。乗馬に不得手な諸葛亮を愛馬に同乗させるために、彼は槍を持参することができなかった。ために彼は剣で戦っていた。
怒号と真剣の刃がぶつかり合う音が鳴り渡り、絶叫が上がるたびに血しぶきが舞い上がった。
やがて立っているのは一人だけになった。蒼銀の鎧に染みた赤紅を、細い雨が洗い流している。彼は剣をひと振りして血を払い落とし腰につけた鞘におさめた。


「・・・ご覧になっておられたのですか」
累々と転がる屍体を避けて馬に向かって歩き出す。
互いに、無事かとは問わなかった。大樹に寄って立っていただけの諸葛亮は身に着けた衣冠の袖すらも乱れていなかったし、彼の鎧を汚すのは返り血だけだ。

「ええ。・・・慣れなければ、と思っています」
諸葛亮は気丈に顎を上げたまま、視線だけを伏せた。かすかに震える指先を、袖の中に隠す。
その様子に趙雲は眉を寄せ、息を殺すようにつぶやいた。
「本当は・・・見せたく、ありません」
「戦から――人死にから目をそらしたまま軍師になれと?」
「分かっております。避けられぬことだということは。慣れていただくしか、ないことも。しかし・・・」
趙雲は手を差し伸べようとして、その手がきれいではないことを・・・両手の指よりも多い敵兵を切り捨てたばかりであることを思い出し、伸ばせないままに握り締める。
「本当は、・・・あなたに見せたくない。――あなたの軍略や策が無いと我らは戦えないと知っていますが・・・それでも。本当は、・・・・・・私の腕の中に閉じ込めて、何も見せたくはないのです」

諸葛亮は静かに首を左右に振り、握り締めた彼の拳に、すこしも汚れないままに白い我が手をそっと重ねた。
「大丈夫です。私は・・・護られております。充分に」
手は・・・まだ少し震えたままだったけれど。もう片方の手で、自らの胸を押さえた。
「持たなくては、いけないのでしょうね・・・固く冷たい、氷のようなものを、心の中に。しなやかで折れない鋼の刃のようなものを――」


彼の白い愛馬は、おとなしく待っていた。
鞍から布を下ろし、雨よけのためか、ふわりと頭からかぶせられた。布をさらに覆うように深くかぶせられ、鎧をまとった彼の胸に強く深く抱きこまれた。
何も見えない、動けない。
「―――その氷、・・・・私の前では、不要です」
諸葛亮は動けないままに、彼の腕の中で目を閉じた。
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