忍者ブログ
YoruHika 三国志女性向けサイト 諸葛孔明偏愛主義
[5]  [6]  [7]  [8]  [9]  [10]  [11]  [12]  [13]  [14]  [15
束縛と自由で5のお題  1)動けない 
お題配布元:Nameless様 http://blaze.ifdef.jp/


「動くなよ、魏延」
しかめっつらに諭されて、魏延はしぶしぶ動きを止めた。
軍師は傷口を認めて顔をしかめ、しかし何も言わずに手当をし始める。

南中――南蛮とは、まこと難儀な土地であった。
暑さ厳しく炎熱のために水が毒に変わり、向かってくる兵も奇抜で精強で、毒矢をつかい毒虫や毒蛇をけしかけてくる。
いやな、戦である。
戦闘に慣れた魏延ですらそう思うのだから相当だ
毒の武器や毒水にやられた部下がのたうち回る、胸が悪くなるような光景がまだ焼き付いている。

軍師は、魏延の左の二の腕についた矢傷を丹念に診療し、念入りなほどの毒消しを行った。
軍師は戦場には出ていない。本陣にいたので、戦闘とは無縁であった。そのせいか、彼からは戦場の匂いはしなかった。いつもの、清雅な墨香がほのかに漂っている。
その香りを嗅ぐうちに、彼の気配に囲まれているうちに、魏延の心は凪いでいった。
高温と湿気にさらされて摩耗した神経や、ぎらぎらとした凄惨な戦闘の剣気がやわらぎ、静けさに包まれる。


腕を見てみると、赤黒く醜悪に腫れていた矢傷の色が抜け、沈静している。痛みもほとんど消えていた。
「・・・まだ、動くな」
たしなめられて、また動きを止めると、丁寧に包帯を巻かれた。
それなりに器用ではあるのだが、本職ではないゆえか、巻き方にわずかに引き攣れがあった。きっちりと几帳面ではあるものの、包帯の端の結び目も少し傾いている。
魏延はその引き攣れや結びの傾きを見やって、ふふんと鼻を鳴らし、腕をかるく振ってみた。
「あっ、動くなというに、魏延。まだ、―――」
声を上げるのを無視して腕を伸ばし、軍師の身体を懐中におさめた。
軍師は結んだあとの包帯の余りを切り取ろうとして小刀を持っていたが、あきらめたようにそれを置き、身を魏延にもたせかけた。

「どうだ・・・・――腕は、動くのか。痛みは・・?」
心配をにじませた口調に魏延は太い笑みをうかべた。
「支障なく動く。大事ござらぬ」
そうか・・・と軍師は嘆息した。
「・・良かった」
「軍師」
引き寄せて口を合わせる。
はじめ薬臭さが鼻についた口づけは、しだいに深く、甘やかなものになった。

「貴公はまこと沁みない傷薬のような方だ。いとも簡単に、某を癒してしまうとは・・・」

わずかに照れが含まれる魏延の文言に、少し驚いたように目をみはった軍師は面映ゆそうに目を細めて微笑し、首をかしげた。

「それは、どうかな。・・・塗り薬は沁みないものを用意できたが。飲み薬は、―――」

支度され、差し出されたのは、見るからに不味そうなどろりとした液体である。泥のような濃緑の上に、白い気泡がぶつぶつと不気味に渦巻いている。

「・・・飲まないと、駄目か、軍師」
「駄目だな、魏延」

薬は、それこそ悶絶するような味だった。豪胆な魏延でもしばらく動けないほどの。というか、鎮痛と解毒の作用が強く、急速に眠気を誘う薬であった。
軍師は、苦悶しふらふらと倒れるように横たわった魏延の包帯の余りを切り取り、優雅な仕草で身をかがめて「・・・早く、治れ」と、魏延の口の端にくちづけた。

深く合わせて貪りたい衝動に駆られたが。
動けなった。

まさか、わざとではあるまいな。あとで覚えておけ。
朦朧と目を閉じた魏延の体躯の上に、ふわりと袍が掛けられた。
魏延の幕舎であるので、魏延の軍袍だ。なのに、袍からは薬と、彼の匂いがした。
PR
束縛と自由で5のお題  1)動けない 
お題配布元:Nameless様 http://blaze.ifdef.jp/



諸葛亮は、動けないでいた。
緑の葉を茂らせる大樹の下でのことである。
あたりは冬枯れの景色が広がっておりほとんどの木々は落葉していたが、諸葛亮のいる樹木は針状の葉をもっており、冬でも青々と常緑を保っていた。
雨が降っている。そして、――血も降っていた。

「ここを、お動きにならないように」
広く枝を広げた大樹の太い幹へと諸葛亮を押し付けた主騎は、低く強く静かな声でそう言った。
だから諸葛亮は動かないでいるのだが、正確には動けないといったほうが正しい。
高らかな奇声を上げて向かってくる兵卒の兵装の色は青紫。曹軍のものだった。大将格はいない。隊長のような者もいないようだった。しかし十人以上はいる。主な武器は槍と矛。それが無いものは剣で斬りかかってくる。

主騎は、彼のもっとも得意とする武器、すなわち直槍を持っていない。これは諸葛亮のせいだった。乗馬に不得手な諸葛亮を愛馬に同乗させるために、彼は槍を持参することができなかった。ために彼は剣で戦っていた。
怒号と真剣の刃がぶつかり合う音が鳴り渡り、絶叫が上がるたびに血しぶきが舞い上がった。
やがて立っているのは一人だけになった。蒼銀の鎧に染みた赤紅を、細い雨が洗い流している。彼は剣をひと振りして血を払い落とし腰につけた鞘におさめた。


「・・・ご覧になっておられたのですか」
累々と転がる屍体を避けて馬に向かって歩き出す。
互いに、無事かとは問わなかった。大樹に寄って立っていただけの諸葛亮は身に着けた衣冠の袖すらも乱れていなかったし、彼の鎧を汚すのは返り血だけだ。

「ええ。・・・慣れなければ、と思っています」
諸葛亮は気丈に顎を上げたまま、視線だけを伏せた。かすかに震える指先を、袖の中に隠す。
その様子に趙雲は眉を寄せ、息を殺すようにつぶやいた。
「本当は・・・見せたく、ありません」
「戦から――人死にから目をそらしたまま軍師になれと?」
「分かっております。避けられぬことだということは。慣れていただくしか、ないことも。しかし・・・」
趙雲は手を差し伸べようとして、その手がきれいではないことを・・・両手の指よりも多い敵兵を切り捨てたばかりであることを思い出し、伸ばせないままに握り締める。
「本当は、・・・あなたに見せたくない。――あなたの軍略や策が無いと我らは戦えないと知っていますが・・・それでも。本当は、・・・・・・私の腕の中に閉じ込めて、何も見せたくはないのです」

諸葛亮は静かに首を左右に振り、握り締めた彼の拳に、すこしも汚れないままに白い我が手をそっと重ねた。
「大丈夫です。私は・・・護られております。充分に」
手は・・・まだ少し震えたままだったけれど。もう片方の手で、自らの胸を押さえた。
「持たなくては、いけないのでしょうね・・・固く冷たい、氷のようなものを、心の中に。しなやかで折れない鋼の刃のようなものを――」


彼の白い愛馬は、おとなしく待っていた。
鞍から布を下ろし、雨よけのためか、ふわりと頭からかぶせられた。布をさらに覆うように深くかぶせられ、鎧をまとった彼の胸に強く深く抱きこまれた。
何も見えない、動けない。
「―――その氷、・・・・私の前では、不要です」
諸葛亮は動けないままに、彼の腕の中で目を閉じた。
姜維は、城内にある私室の窓を開いた。
深まりゆく冬にふさわしい寒冷な空に向かって息を吐くと、白く濁ってたなびいた。
成都よりずっと北で生まれ育った姜維は寒さに強い。だからこれから迎える蜀での初めての真冬に関してまったく思うところはない。
姜維は蜀に来てから、成都の城内に居室を賜ってから、ひんぱんに窓を開け放つようになった。
魏国ではそのような習慣は持ってなかったので、これは本当に最近の癖だ。
火照った頭や身体を冷ますために。
姜維の脳裏や体躯を火照らせる原因である張本人は、おそらく寒さに弱い。
ごくまれに近づいて触れるかの人の身体はいつも不安になるほど体温が低い。
静かな挙措や口調も、まとう空気もあまり熱を感じさせないものだ。
それでいてかの人は、姜維の中の熱を煽りつづけている。
清雅な姿を、穏やかな声を思い出した姜維はまた体温が上がった心地がして、窓枠に額を押し付けた。
からからに乾いた木の感触にすこしだけ熱が引いていく感じがする。
その時扉が叩かれ、見覚えのある侍従が顔をのぞかせた。
「丞相閣下からです」
運び込まれたのは、厚みがあって、いかにもあたたかそうな毛織布である。冬用の寝具であろう。
「自愛するようにと」
姜維は唇を引き結び、非礼を承知で返答をしなかった。かたくなな態度をどう思ったのか分からないが侍従は特に反応をせずに退室していく。
(また、子どものような扱いを)
冬用の毛布、だなんて。
いつだってそうなのだ。
寒くはありませんか。よく眠れていますか。食べものは口に合いますか。
頻繁にではない。でも、ふとした折に漏らされる、人にも自分にも厳しい人からの、特別の温情・・・あきらかな特別扱い。
期待されている。もっといえば・・・愛されていると、思う。
だけど・・・・・それは後継として、なのだ。
当たり前だ。他に何がある。
苛立ちのあまり姜維は窓枠に拳を叩きつけた。
誰にも負けない武が欲しい。
誰にも劣らぬ知略が欲しい。
修練を積み、知識を身に着け経験を磨き。
高みへ。
かの人の後継にふさわしいものになるために。
(だけど私は、かの人の後継になどなりたくないのだ)
丞相。
あなたは、何も分かっていない。
あなたから贈られた毛布なんてかぶって、私が安眠できるとでも?
可愛らしい弟子だと思っておられるなら、間違いだ。
私はいずれ遠くない未来に、弟子の領分を踏み越える。
この熱はきっと・・・この身を食い破って、あなたへ襲いかかるのだろう。

風呂上がりの馬岱はほかほかとゆであがっていて、襟のない簡衣を着て、ざっくりと腕まくりをしている。
なんてことのないいでたちなのに、宮城では見かけない男っぽさを感じて、目のやり場に困る。

こくりと頷くと、本当に刃物を持ち出してきて髪を切られてしまった。
「きれいな髪だね、諸葛亮殿」
切るというよりは削ぐという感じで器用に手を動かしながら、くったくなく彼が言う。
なんとも思わないのだろうか。
こんな近くで、息が触れそうなのに。

「ありがとうございます。・・・・頭が軽くなりました」
濡れた髪は切り落とされても始末に困ることはなく、さっさと片付けてしまった馬岱が諸葛亮の濡れ髪を布でくるんでぽんぽんと布に水分を吸い取らせる仕草をする。
近い。
困る。
夜で、風呂上がりでふたりとも薄い夜着をまとっただけの恰好で、この距離なのだから。
「・・・あなたの髪も、まだ濡れています」
「んー?」
そっと手を伸ばして触れると、茶色のくせ毛はまだ水滴を含んでいた。
「俺の髪は短いから平気だよ」
「と言われても、気になります。武将は身体が資本なのですから。それに・・・・あなたはいつも自分を後回しになさる。あなたは私を大事にしてくださっているのでしょうが・・・私も、あなたが大事なのです」
布を取り上げて馬岱の髪をくるみこむと、さらに顔同士が近くなった。
「諸葛亮殿・・・」

吐息が頬にかかる距離まで近づいて・・・・・頭部からゆっくりとおりてきた馬岱の指が諸葛亮の頬に触れた。
(あ・・・・)
口づけをされる・・・・とおもったのだがくちびる同士は合わされず、鼻先がすこしふれた。
至近でみつめると、漢人とはすこし異なる面立ちがへにゃっとくずれて、笑みの形のままのくちびるがやさしく頬に触れた。諸葛亮がまぶたをおろすと、今度こそくちびる同士が近づく。
触れあわされるだけのものを何回か続けてから、すこしだけ重ねられた。食むように、戯れるように。
心と身体の奥底からこんこんと涌き出たものに、爪先まで満たされていくような心地がする・・・・。
「・・岱・・どの」
「ん、・・・」
名を呼ぶと相手の背がひくっと揺れた気がした。
くちびるが離れてから、諸葛亮は指先を伸ばして相手の顔の輪郭をなぞるようにたどる。
馬岱ははぁっ・・・と息を吐いた。
「なんかさぁ・・・・なんかさぁ、いろいろと反則だよねぇ諸葛亮殿って」
「はい?」
「あたためて、やすませてあげたかっただけなんだよ?俺。信じてくれる?諸葛亮殿」
「・・・これ以上なくあたたまっております・・・が、その、やすむのは・・・もうすこし先でよいかとおもいます・・・」

多分、おそらく、きっと。性欲ではない、これは。
だけど、近づきたい。包みこまれたいし、包みこみたい。
「・・・・私はふだん夜が遅いので。・・・こんな早くからやすめと言われても。困ります」
ほんとうに、困る。
・・・と諸葛亮はおもった。男をさそう方法など四書五経のどこにも書いてないのだ。分かるわけがない。
困ったままで見つめると、口づけをされた。
触れる吐息が熱くて、控えめに唇を開いて侵入してくる舌を迎え入れる。
貴重なものに触るように慎重にそぅっと抱き寄せられて聞こえた相手の心音は、諸葛亮のよりもずっと早く脈打っていた。



 


落ちてしまったな、と思う。
まったくいい年をしてと思うし、想定外だという焦りもすこしある。
こんなふうになるとは想像していなかった。
こんなふう・・・つまりは一緒にいると心に火が灯るような心地になったり、ほんのすこし触れられると身体に火が灯るような心地になったり。軍務につく相手を目で追ってみたり、そのままいつまでも見ていたくなったりもする。
特別なひとりの人を持つということがこういうものだとは、知らなかった。
こんなにふうにくすぐったくて、心地よくて、気恥ずかしいものだとは。

恋とはするもんじゃない、落ちるものだとは、よく言ったものだ。

以前なら笑いとばしただろうが、いまはまったく笑えない。むしろこんな状態であることが人に知られたら笑われるだろう。腹をかかえて大笑いしそうな知り合いが何人も浮かぶ。


うちにおいでよ、といざなわれた時、すこし困ってしまった。
政務がまだ、みたいなことを言ってみたのだかまったく本心ではなかった。

そういうことをするのかなと、反射的に思ってしまって、自分のその思考に恥じ入ってしまった。
彼はあまりそういうことに熱心ではない。かといって淡白というわけでもなく、とらえどころがない。
私はというと、同じくそちら方面には熱心ではないし、淡白だ・・・と思う。思っていた。いや今でも淡泊だ・・・なはずだ多分、おそらく、きっと。


多分、おそらく、きっと。性欲ではない、これは。

胸の奥底がうずくような感じがして諸葛亮はすこし困った。
そのうずきはみぞおちのほうにもあって、そのあたりがほの熱い気もする。
身体を交わらせなくとも良いのだとは思う。しかし、触れたい・・・と望む気持ちがあることはいなめない。
それこそ良い年をして。しかも男同士であって、しかもしかも諸葛亮が受け役だったりする。
そのうえでふれあいを求めているのだから、途方に暮れるしかない恥ずかしさだ。

彼の屋敷に伴われ、食事をふるまわれて彼自身が薪をくべて沸かしたという風呂を馳走になった。
飄々としてとらえどころないが、馬岱はやさしい。
ただ馬岱のやさしさや献身は幅広く万人に向けられたものではなくて、実はものすごく狭く限られた範囲の対象にのみ発揮する。
人あたりがよくていつも笑っている彼が、実のところたいせつにしているものは、ものすごくわずかだ。
その対象がいまは自分であることが、うれしい気もするし切ないような気もする。

風呂から上がった諸葛亮と交代に、馬岱が風呂を使いに行った。
ほかほかとゆであがった身体を籐の長椅子で休めていると、おどろくほど早い時間で馬岱が風呂から上がってきた。
元から風呂が短いのか、それとも・・・自分とはやくふれあうためにさっさと済ませてきたのか、よく分からない。分からないが恥ずかしい。政務をとるときのような冷静さは戻ってきそうにない。・・・恋人と過ごす時間に冷静さなどいらないのかもしれないけれど。

「髪、乾かす前に切っちゃう?」
にこっと話しかけられてうつむく。動揺してしまったのだ。
馬岱はもちろん武将として過不足のない体躯をしているけれど、際立った体格や容姿をしているわけではない。呉の美周郎や陸伯言、わが陣営でも馬超や趙雲といった武将はずば抜けた容姿をしている。
だけど彼らの華やかで美しい容貌が諸葛亮に感銘を与えることはないし、ましてや動揺なんてしたことはない。
馬岱の笑顔だけなのだ。・・・・・こんなふうに気恥ずかしくて、いたたまれない気持ちになるのは。・・・・それでいてしあわせで心と体に灯りがともるような心地になるのは。

カレンダー
06 2025/07 08
S M T W T F S
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31
バーコード
ブログ内検索
最古記事
(03/24)
(03/25)
(03/29)
(03/30)
(04/06)

Copyright (c)SS倉庫 All Rights Reserved.
Powered by NinjaBlog  Photo by Kun   Icon by ACROSS  Template by tsukika


忍者ブログ[PR]