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YoruHika 三国志女性向けサイト 諸葛孔明偏愛主義
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今宵は比較的早めに仕事を切り上げて軍師府を退出したという。

夕暮れから始まった夜間行軍訓練をつつがなく終わらせた趙雲は、武装を解き、ゆったりとした足取りで軍師の私室へ向かった。

諸葛亮は、板張の床に丸い毛糸編みを敷いた上に端座して、書を読んでいる。
一見するとくつろいだ様相だが、趙雲の目にはそうは見えない。
眉間にかすかな険が漂い、まとう空気が緊迫している。
ということは読んでいるのは、趣味の書ではなく、政務の書簡だろう。
「軍師、殿」
「・・・趙雲殿・・?いま少し・・」
「はぁ」
表書きに目をやると、要衝の地を警護する兵卒の訴えを書き留めた軍官からの報告書であるようだった。こういうものをなおざりにしておけば、兵卒や将官の不満が鬱積して大事になりかねない事は、趙雲にも分かっている。
細かい事項にも手を抜かないことは尊敬に値するが、細かすぎやしないかと心配になるのは、もういつもの事のようになっていた。

諸葛亮は別の書を読みはじめる。
「諸葛亮殿」
「・・」
そっと呼びかけるが、返答がない。
「せめて冠は取ったらどうですか」
邪魔にならぬように息を殺して指先を伸ばし、細い結わい紐を解き放って、冠を留めている笄を慎重に抜き取る。

かすかな音を立てて髪の束が落下した。月光にも似た白いうなじに絹色のような黒い髪が落ちかかる様は、はっと息を呑むほど鮮烈な光景だった。
解けた黒髪の落ちかかるうなじの細さと白さに、ふと喉が乾いたような心地になり、趙雲はわずかに身じろぐ。
いつも思うことだが、この人が書に目を落とす様は、美しい。
横顔は沈静に整っていて、静謐さをたたえている。
というのに、自分は静謐とは対極にあるような心境だった。
困った・・・はやく読み終えていただけないものか。

背を向けて長衣を脱ぎ捨てて単衣になり、簡単な寝支度を整えてみても反応がないので、仕方なく趙雲は手直にあった兵法書を紐解いた。
書を読むのは得意ではないし、特に好きということもない。必要であるから読む、それだけだった。



読み終えた竹簡を巻き終えて卓に積み上げると、諸葛亮はちいさく息をついた。
顔を上げると、趙雲があぐらをかき、書を読みふけっている。
没頭しているようだ。
時に思うことだが、この人が書に目を落とす様は、好もしい。
何事にも真剣に取り組み、真摯にやり通す性分が、こんな時にも現れているようで。
書を読む横顔は、いつに増してきりりとしており、見惚れた諸葛亮は目を細めた。

・・おや・・
冠がなく、まとめていた髪が落ちている。
いつの間に・・?
趙雲がしたのだろうか。
髪を解くなんてことをされて、気付かないなんて。少々気恥ずかしい。

諸葛亮は膝で進み、武将の結いに指先を伸ばした。
軍装の時は金具でかたく留められているが、寝支度をしてきたのであろう、ゆるくまとめただけの結いは簡単にほどくことができた。
艶めいた黒い髪が鍛え抜かれた首筋に落ちかかるのが、なんとも色めいていて、諸葛亮ははっとした。
こっそりと冠を外されたお返しにとやったことだが、なにか、良くないことをしてしまったような気になる。
ぱっと、趙雲が振り返った。
唇がうごいた。孔明どの、と。
音のない声でよばれた諸葛亮は、かすかに身じろいで返答のかわりとする。
熱心に、何の書を読んでいるのですか。
そのような問いをしようと開いた唇を、向かい合った相手のそれで塞がれた。
唐突に。なんの脈絡も前置きもなく。

驚きに諸葛亮は目を見張った。
相手の片手が上がって諸葛亮の後頭部を覆う。逃げられなくされてから相手の舌を含まされ、肩が上がった。

解かれた髪をまさぐられ、ますます逃げ場のないような感覚にとらわれる。
しかし、逃げを考えなくてはならない相手ではない・・・諸葛亮は目を開いて相手が見慣れた蒼将であることを改めて確かめてから、自らの舌を少しだけ動かし、相手のそれに誘うように触れた。
舌同士が深く絡み合う。熱心で、どこかやさしさのある口づけに力が抜けていく。
同性の体臭などを好もしいとおもったことは無い。というのに、身の内が震えるような心地がする。凛々しい雄の匂いにずくりと腹奥がうずく感覚があるのが、羞恥を呼んだ。

「あ、・・」
相手の髪が無防備な首すじの肌をくすぐって、諸葛亮は身を震わせた。
「髪が、くすぐったい」
「あなたが、解いたのでしょう」
「それは、そうですが・・貴方が、私の髪を解いたから」
諸葛亮は手を伸ばして趙雲の髪に触れた。ほんの少しだけ癖があってまっすぐではない黒髪が指に纏いつくのすら、官能を呼び込む。

とさりと床に押し倒されて、目を見張るうちに明かりが消された。
首筋に顔を埋まる。無意識に相手へとのばした手はやわらかく拘束されて、床に押しつけられた。
「子龍・・・牀台へ」
「待てません。――あなたが悪い」
朱黄色の火が消えてほとんどものが見えない中で、先ほどよりずっと性急な口付けをされ、昼間のままの表袍をゆるめて、手が這入ってくる。
冷えた膚に熱いほどの手の体温。重なる咥内もまた熱かった。

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頭の芯で鈍痛がやまない。喉もひどく痛む。
ひそかに侍医を呼ぶと、「風邪ですな」とあっさり断言され、その場で――つまり私の部屋で、薬草の調合がはじまった。
苦みのある青臭い匂いが、鼻の奥をつんと刺激する。

秘密にしてもらえますか、と頼むと、良いでしょう、見舞客が押しかけてもお困りでしょうから、という返答だった。
ですが、蒼龍殿はお気付きになるでしょう、と医師は肩をすくめる。
裏付けるように、足音が聞こえた。

「孔明殿・・!」
大事ありませんと言おうとしたのに、喉が痛んで声が出ず、かわりに空咳がこぼれ出た。男らしく整った清冽な容貌の眉が寄る。
働きすぎです。夜は休まれていたのか。食事をちゃんと摂っておられなかったのでしょう。まったくあなたは、いつもそうだ。

お説教が身に染み入る。薬草を煎じる医師が笑いに肩を震わせている。もっと言うてやりなされ、将軍。
出来上がった薬湯を渡され、苦いですかな?と聞かれるが、味は分からない。お風邪は身体が休養を求めているのです、長引かせるよりはまずは一日お休みなさいと言って、道具を片付けた医師は退室していった。


さあ、お休みに、と背を押されるようにされて、寝台へ。褥の中に押し込められる。
「傍におります」
布団の中でそっと、手を握られた。堅くてたのもしい武人の手。
身体も脳芯もふわりとゆるむ。
「何からもお護りいたしますゆえ、お休みください」
目を閉じるとすぐに、とろとろとした眠りにひきこまれた。


「ああ、暑い。身体の芯から熱い。なのに背筋はぞくぞくと寒いのだ」
「発熱しておいでですから」
「寒いと思うのに汗は止まらぬ。ああ、暑い。熱い。しかし寒い」
「さ、薬湯を」
「う・・む、すまぬな、孔明よ」
「なにを仰せになられるのです、主公。代わって差し上げたいくらいです」
「ばかもの。代わって、何とするか。おぬしが倒れると皆が困ろう」
「主公こそが、われらの要にございます。‥‥すこし、お眠りになられると宜しいのですが」
「眠りたいのだが、こう暑くてはなぁ‥‥暑いのに、寒い…せめて汗が引けば」
堂々巡りだ。
夏風邪をひいた劉備の枕辺に、諸葛亮は詰めていた。
「人恋しい」とねだられたから。
熱があるのに寒い、いや、熱があるから寒いのだろうか?とにかく風邪とはそういうものだ。
しかもくっそ暑い夏場のこと、暑さと悪寒と汗の不快さゆえに寝入ることもできず、劉備の機嫌は悪く、どうにも人恋しく、ぐずぐずぐだぐだと、諸葛亮を引き留めていた。

「汗をお拭きいたしましょう」
「え、いや、うむ」
美貌の寵臣の申し出に、照れたようにうろたえる劉備。
「俺が、やりましょうか?」
「お、趙雲」
新たに現れた美丈夫に劉備がうれしげな声を上げた。人好きな劉備は、具合が悪くっても家臣たちがやってくるのは嬉しい。

「軍師。そろそろ戻られよ」
趙雲は、井戸からくんだばかりの冷たい水に、布をひたして絞った。
「主公がおさびしいようですので。それに、新作の薬湯の効果も確かめたいのです」
うんうん、わしはさびしいぞ。
って、新作の薬湯の効果、わしの身体で試したのか?
ちょっと微妙な気になる劉備。もちろん諸葛亮の調薬は信じているが、この寵臣は普段はおっとりしているくせに、時にびっくりするくらい過激だったりするのだ。

「風邪がうつったら、どうするのです」
「将軍こそ」
「俺は、平気です」
「私だって平気ですよ。ほら、熱なんて、無いでしょう?」
こつ、と額を触れ合わせる。
距離感の親密さに、うひゃーとなる劉備。
「たしかに、いまは大丈夫そうだ」
「昔から風邪って引かないんですよね。均はたまに寝込んでいましたが」
「均・・?弟君ですか」
「ええ」
「似ておられるのか、あなたに」
「気性も容姿も、あまり」
「はは」
めずらしく趙雲が頬をゆるめた。
「似ていなくて、結構」
「なぜ?」
「あなたみたいなのが二人もいたら、たいへんだ」
「ひどい言われようです」
頬をゆるめた趙雲と対照的にふてくされる諸葛亮。

えっと。
ちなみに上の会話は、劉備の汗を拭きながらのことである。手際よく拭かれながらかくも軽やかな会話をされると、なんかこう。
かいがいしい若夫婦に介護されてるみたいじゃないか、わし・・!?
たいへん微妙な気分におちいる劉備。

「もう、寝る。おまえらもう行け」
「おや、眠気が?ようございました」
諸葛亮はやさしく布団を掛け、趙雲は枕辺に水差しや布を整え、
「どうぞご静養を、主公」
それぞれに几帳面な拱手をして、退室していった。

「ふふふ、新作の薬の効き目は抜群のようですね」
「なにを入れたんだか・・主公は頑丈ですが、年も年です。あまり過激なものは」
「ふふ、葛に麻黄に・・原料はふつうですが、製法にひみつがありまして。効果てきめんですよ。眠れないとあれほどぐずついておられた主公が、あっさりと寝たのですから」

寝たんじゃない。おまえらが仲良しすぎて当てられたんだ。
人恋しいわしが出ていけと言うなんて。たいがいであるぞ。
趙雲、年も年って。覚えておけ。

しかし、身体が軽くなったのは確かだ。
ていねいに清拭されたので汗も引き、さっぱりしている。
寝るか。
関羽、張飛、はよう帰ってまいれ。
野外の長期調練に出ている義兄弟におもいをはせ、劉備は目を閉じた。

 束縛と自由で5のお題  2)風より軽やかに・・・できてない趙孔

お題配布元:Nameless様 http://blaze.ifdef.jp/

 

 

 

建安13年。長江・赤壁にて孫権・劉備の連合軍は曹操と対峙し、火計により撃破。

南屏山拝風台にて東南の風を祈祷したとされる軍師諸葛亮は、追っ手を逃れ、劉備軍に帰陣していた。

 

 

 

「孔明が、目覚めないのだ、趙雲」

主君に問われて、趙雲はその精悍な眉をひそめた。

「はぁ・・?」

 

精根が尽き果てたのか、軍師は昏睡のような深い眠りにおちていて、目覚めないのだという。

仮の陣地である。急ぎ、移動する必要があった。

 

「耳元でメシだぞ!!~って叫んだら、飛び起きるんじぇねえのか」

「無理だろ、お前じゃあるまいし」

張飛の提案を劉備があっさりと却下する。

 「枕元に、軍師の好物でも置いたらどうか」

見事なひげをしごきながら関羽が提案する。劉備は手を打った。

「好物か。ふぅむ、良いかもなあ」

好物を置いたら目覚めるって、どこの幼児だ。趙雲は内心であきれた。しかしながら一方で、あの変わり者の軍師なら、そういうこともありそうだという気もする。

 

「孔明の好きなものか。ふぅむ、そうだなあ、本と、菓子と、・・・あっ、」

なぜか、劉備と張飛と関羽が、趙雲を振り返った。

「・・なんです、主公?」

そんな期待を篭めた目で見られても。戦場に、本や菓子なんて持ち込んでいるはずもない。

 

劉備に背を押されて、趙雲は、軍師の天幕へと押し込まれた。

 

軍師はうすぐらいなかに横たわっていた。

ぴくとも身じろがず、人形のように。

近寄って、膝をつき、のぞきこむ。

(・・痩せたな)

そっと、手を伸ばした。

頬に触れる。

 「起きてください、軍師」

ひたいにも、触れた。こめかみにも。そしてもう一度、頬に。

「あいにく本も、菓子もありませんが。あなたを待っているものがおります」

 

ゆるやかにまぶたが震えた。

ゆっくりと、うるわしい黒眸があらわれる。

 

諸葛亮は、やわらかく微笑した。まるで花がほころぶように。もう人形にはみえない。
 

「・・・おはようございます、趙将軍。朝、目が覚めてさいしょに見るのがあなたの顔だなんて、なんてよい一日のはじまりなんでしょう」

 

趙雲は、ふっと息を吐いて、立ち上がり、冷静に突っ込んだ。

「いまは夜です、軍師」

 

 

天幕の外で劉備が腹を抱えて笑っていた。

「心配して損したぞ、孔明。元気じゃないか」

「目が覚めたなら、ようござった」

ゆったりと構える関羽。

「愛の力すげえ」「本と菓子に勝ったぞ将軍」

兵卒がさわぐ。

 

 

軍師が、幕舎から出てきた。うーんと伸びをしている。

「食事を」

「ひさしぶりに、聞きました、将軍のそのせりふ」

 

くすくすと軍師が微笑する。長江をふきぬける風より軽やかに。

惹きあうように近づいて。

こつん、と額同士が触れあった。

 

「おかえりなさい、軍師」

「ただいまもどりました、将軍」

背中があたたかい。
趙雲は床にあぐらを組んで槍の切っ先を磨いている。彼は書物を読んでいる、趙雲の背にもたれかかって。
竹を綴りあわせた書簡が時折からからと乾いた音を立てている。
くすりと、彼が気配だけで微笑んだ。
「・・・将軍。槍の刃って、四度も磨かなくてはならぬのか」
「、・・・」
一瞬、息を止めて、止めた息を吐いて、磨いていた槍と絹布を敷物の上に降ろした。
「気付いておられたのか」
「気付いていない振りをしようかとも思ったのだが。そんなに磨いては、槍が磨り減ってしまいそうで」
「すり減ることは、さすがにありませんが」
「そう」
袖を払う衣ずれがして、からからと音がして竹の書簡の読み終えた部分が巻かれて、未読の部分が広げられる音がした。
外は雪でもちらつきそうな凍えた夜空。しかし室の中は炉の火が燃えていてあたたかい。そして触れ合った背中同士も。

「背もたれが無くなると、お困りだろうかと」
また彼が笑った。今度は気配だけではなく、喉を震わせて。
「・・そうだな。とても困る」
「左様か」
今夜の彼はやけに素直だなと、思う。
背もたれになるのはやぶさかではないが、こちらは手持ち無沙汰。ちらりと視線を走らせるも、白い手に持たれる書簡は長いもので、速読の彼といえどもまだまだ読み終わりそうにない。

趙雲はふいと身体の向きを変えると、軍師の背をおのが胸に抱き込んだ。軍師の左右の脇の下に腕を通し、軍師のみぞおちの前で、両手を重ね合わせる。
「・・・・・・将、」
「子龍、と」
耳元でささやくと、目の前の耳朶がじわりと薄い朱に染まり、心地悪げに身じろぐ。
「、読みにくい」
「何故?邪魔はしておりますまい」
「落ち着かない・・・」
「俺が、槍を磨きながら落ち着いていたとでも、お思いですか」
「貴兄が落ち着きを失った様など、見たことがない」
「想う方がこのような距離にいて、落ち着けというほうが無理だ」


軍師がまた身じろぎ、視線をさまよわせた。
「読書の続きを、どうぞ。――その書を読み終わるまでは、背もたれでいて差し上げましょう」
「背中合わせの、ときは・・・対等だったのに。これでは、――・・」
「これでは?」
「――拘束、されているようだ」
ただ緩く両手を廻しているだけで力は込めていないが、軍師にしてみればどこにもいけない体勢だ。

趙雲は艶やかな苦笑を浮かべた。
「いえ。これくらいでちょうど対等、ですね」
貴方という存在にがんじがらめに囚われている我が身を思えば。
この程度の抱擁で拘束、などと言ってもらっては困る。

背中を合わせているより更にあたたかい。彼の体温をより強く感じる。
それに視覚の存在は大きい。秀麗な容貌も、重々しい袍に包まれた実は細い肢体も目に入る。
「――はやく読み終わってください、軍師。俺の我慢が限界を超えないうちに」
見事な黒髪に口を寄せてささやき、悪戯に耳朶を噛めば、そこはさぁっとあざやかな朱に染まり、軍師の手から長い書簡が転がり落ちた。
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