夢を見た。
まこと戦場とは美しいものがひとつも見当たらぬ。
飛来する矢に馬が斃れ、徒歩にて雨あられのごとく向かい来る敵兵を片っ端から叩っ斬った。
血はふつふつと煮えたぎり臓腑が灼けるような高揚とともに、おぞましさに反吐が出そうな心地である。
鋼と鋼がぶつかり合って生ずる一瞬の火花。受けた傷から流れ出る血は生命そのもの色で戦袍を内側から汚し、得物の大刀を振るうたびに返り血がどしゃぶりに降りそそぐには辟易とした。
振り上げざまに股から胸までを一撃で切り上げ、横ざまに薙いで雑兵の首を飛ばす。将校格の鎧はさすがに堅固で刃が通りにくいが、豪腕でもって捩じ斬るように刃を叩きつけては絶命させた。
いつの間にか深入りしすぎていた。
ほう。ここで死ぬるのか。
まるで冥府にひきずりこまんとする白い手が伸びてくるのを、魏延は掴んだ。
女というほどは細くも華奢でもなく、案外しっかりとした骨をしている。それでも魏延がわずかなりとも力を込めれば、なんなくへし折ってしまえる白い手首を、掴んでいた。
掴んだ手を辿って視線を上げる。
「・・・おまえのような者でも、悪しき夢に苦しむのだな」
水のような声を聞きながら魏延は床に敷いた寝床の上で身体を起こした。
「べつに悪しき夢ではござらぬ。戦場にて敵を殲滅せんとしたところだったのだからな」
不敵な嘲笑さえ浮かべた魏延を軍師はまっすぐに見詰めた。
「某は卑賤の生まれ。戦場で手柄を立てねば出世は叶わぬ。さよう、悲惨であればあるだけ武勲をたてる機会が多いゆえな。望むところよ」
「・・・そうか」
「まだ、仕事か、丞相。もう夜半は過ぎていように」
「いま終わった。寝る」
「左様か」
「添い寝か、荒淫か―――さて丞相、この魏文長に、どちらを所望なさる?」
「やさしく、抱け。魏延」
「は、・・・」
やさしく。
やさしく敵を殺したことはないが。
「できないのか?」
「・・・・・・・できまするな、おそらく。貴公がお望みであられるならば、善処いたそう」
「うん」
冷えた肩をやわらかく抱き寄せ、玲瓏とした白皙の容貌を見下ろして魏延はふと、夢の中の戦場に居た己を思った。
わが軍の戦場には、美しきものが在るのであったな――・・
軍師は結んだあとの包帯の余りを切り取ろうとして小刀を持っていたが、あきらめたようにそれを置き、身を魏延にもたせかけた。
暴力的表現を含んだセリフおよび性描写が全編にはいっています。
苦手な方は閲覧しないことをおすすめします。
「捕虜を拷問する効果的な方法を知っているか?」
武将は背後から軍師を弄っている。
重々しい長袍を乱して滑りこんだ片方の手は胸の突起をいじり、片方の手は股間へと伸ばされていた。
「…あン…ッ」
爪を押し付けるように立てられてて、軍師は高い声を上げる。ふくりと尖った胸の突起と下肢で勃ちあがった中心に、まったく同じことをされていた。
薄い粘膜でおおわれた敏感な部分への衝撃に、軍師は前のめる。だがそれで開放されるはずもなく、胸へはさらにえぐるように爪が食い込んでくる。
同時に下肢では鷲掴みにされている中心が無骨な手にしごかれていた。強弱をつけて…といっても強めにされる時間のほうが長い。痛みを感じる責めに、軍師は日になどすこしも焼かれていない白い肢体を火照らせた。
「知らないだろうな。教えてやろうか。まずな、――」
「ぁ、ッン…ぁっ」
「腹を5、6発殴って――顔より腹のほうが効果的だな、足にくるから――それでたいていのやつは立ってられない。伸びたやつに水掛けて引きずり起こして、利き手じゃないほうの手の指を、一本ずつ折っていくんだ。なるべく、ゆっくりのほうがいい。一本折るごとに早く吐いたほうが楽になれるんだぜってことを思い知らせながら…な。ま、このあたりで吐くやつは幸せだが、たいして情報はもっていない。問題は、訓練を受けたほんものの間者なんだが」
「…」
「利き手を指を一本ずつ折ってくと、たいていのやつはけっこう絶望しちまうな。もう武器は持てないって事だから。ま、軍師殿にはこのあたりの心理はお分かりになられぬかとおもうが。…で、そのあたりで腹にもう一発蹴りいれて悶絶さしといてから、な。ここを…」
「―――ヒ」
頑丈な武将の手が、可憐な色をした軍師の双玉を鷲掴む。
「…陰嚢掴んで、つぶしちまうぞって脅す。と、どんなやつでも落ちるな」
「――ぃっ…」
殊更やわらかいそこを強く揉みしだかれ、軍師は陸に上げられた魚のようにびくびくと体をしならせた。
「いっつも不思議に思うんだよなぁ。どうせ生きて帰れるなんて思ってないだろうによ。ひとおもいに殺せっては云うんだぜ?それがさ、ここ潰されるって、もんすごい恐怖らしくてべらべらしゃべっちまうわけ。生存本能より生殖本能のほうが強いのかね、男って。……すごいな、ここまで濡れてる」
さいごの語だけささやくように言う。勃ち上がった花芯から垂れる蜜は軍師の陰嚢までたっしていた。
武将は軍師の前を撫でまわしてぬめりをあつめると軍師の尻に塗りつけ、おざなりに慣らして挿入した。
「…ぁぁあああーー!」
軍師は細い体をのけぞらせて悲鳴を上げ、すべて挿れられたあとは嗚咽した。
「…痛い…」
「痛いほうが好きだろ?」
泣き顔の軍師に、武将は困ったように嗤っていた。
臆病ものだと、かれはわたしをののしった。
諸将は困惑にざわめき、文官からはわたしへの非礼を咎める叱責がかれへと飛んだ。
かれが、嘲笑う。
かれを目のかたきにする文官たちには目もくれず、わたしだけを見て。
「失敗したところで、死ぬのは某と、某の部下のみ。どちらにころんでも丞相の御損にならぬ話でござろうが」
「許さぬ。遠征は予定通り危険のすくない道をえらび全軍一致に進軍し、まず隴右を奪うものとする。先鋒には…」
わたしは平坦な声を出せているか。
顔は平静なのか?
おまえを喪いたくないのだと口に出したら、おまえは、わたしを嘲笑うだろう。
わたしを哀れんで、嘲笑うだろう。